スマートフォンでハザードマップを確認する藤川敦志さん

　豪雨をはじめ自然災害の防災対策にはハザードマップが欠かせないが、目が不自由な人は地図上の情報を読み取ることができない。どうすれば災害リスクなどの情報にアクセスしやすくなり、防災力を高められるのか。福岡市視覚障害者福祉協会専務理事で全盲の藤川敦志さん（62）と共に考えた。　（山田育代） 【写真】「耳で聴くハザードマップ」の画面 　ハザードマップは洪水や土砂災害など災害の種別ごとに被害が想定される区域や危険度、避難場所などを示す地図。市町村は水防法で作成を義務付けられ、配布したりインターネットで公開したりしている。ただ国土交通省によると、マップ上の情報を音声や点字で伝えるなど、障害者にも対応しているのは41自治体（2021年時点）で、全体の3％に満たないという。 　福岡市は点字版のマップを用意している。ところが、普段パソコンやスマートフォンを音声読み上げソフトで難なく操り、市の防災メールにも登録している藤川さんでも、その存在を知らなかった。周知が徹底されていないのだ。「私たちは情報弱者なんです」 　国交省が作成した、全国どこでも調べられるサイト「重ねるハザードマップ」にも課題がある。昨年5月、住所を入力するとその地点の情報が文章で表示されるよう改良し、「読み上げソフトを使えば視覚障害者も理解できるようになった」と担当者は胸を張るが、藤川さんは「知りたい情報になかなかたどり着けない」。サイトが多機能すぎて複雑なため、使い勝手が良くないという。 　　　　◆◇◇◇◇◇◆ 　こうした状況を受けて、福岡市が今春導入したのがスマホアプリの「耳で聴くハザードマップ」だ。衛星利用測位システム（GPS）を使って現在地の情報を瞬時に読み上げる。 　「大雨の時に自宅周辺が50センチ～3メートル浸水する可能性があると初めて知った」。このアプリで、藤川さんは初めて身近な災害リスクを把握できたという。 　視覚障害者に広く知ってもらおうと、福祉協会は8月に説明会を開いた。アプリには最寄りの避難場所へ音声誘導する機能もある。スマホを向けた方向に避難場所があると振動や音が鳴り、「9時方向、560メートル、徒歩7分」などと知らせてくれる。参加した約20人も早速挑戦し「どっちに進めばいいか分かりやすい」と感嘆の声を上げた。 　「聴くマップ」はアプリ「Uni－Voice　Blind（ユニボイス　ブラインド）」内で今年4月に始まったサービス。誰でも無料で利用できる。 　NPO法人日本視覚障がい情報普及支援協会（東京）が開発し、契約した11自治体のハザードマップ情報を提供している。九州では福岡市の他に熊本県と熊本市が導入している。災害時に警報や避難指示といった情報をリアルタイムで通知する機能もあり、同協会は全国的な普及を目指す。 　　　　◆◇◇◇◇◇◆ 　しかし、パソコンやスマホを使いこなせるのは視覚障害者の一部だ。藤川さんは「避難場所が分かっても、実際に避難する人は限られるのではないか」とも懸念する。 　災害時の様子をテレビで見た経験がないため、まず避難所がどういうものかイメージできない。避難してもトイレや食事の場所を把握するのは難しいだろう。「だから、覚悟を決めて動かないことを選ぶんです」 　安心して避難するため、藤川さんは地域の防災訓練に参加したいと考えている。実際に避難場所に行き、食事がどう提供され、段ボールベッドがどんなものかを知ることで、未知への恐怖が和らぐという。 　だがこれまで、藤川さんに訓練の案内が届いたことはない。「自治体や自治会は地域に障害者がいることを意識して参加を呼びかけてほしい」と語った。