ソフトバンク育成2位のち中日→戦力外でトライアウトから5年…地元で社会人監督「僕が悪ければ選手に謝ります」“独立Lの星”亀澤恭平36歳の今
みんなの前で大きな声を上げずに
チームには「プロ枠」で、髙田萌生(元巨人、楽天)、引地秀一郎(元楽天)、福森耀真(元楽天)が選手として在籍している。 「基本的な指導は、選手の引き出しを増やすことに特化していて、特にこれをやれとは言っていません。ただ、うちはトップアスリートの子たちが集まっているわけではなく、基本を知らない子も多いから、まず基本を教えて、そこから枝わかれしていく指導をしています。同時に、自主性に重きを置いているので、全体練習はすごく短いんです。練習を見ていて気になった選手に声をかけます。みんなの前で大きい声を上げずに、一対一の対話の中で成長を促すような感じですね」 取材日は雨天のため、室内練習場での練習だったが、亀澤監督は選手の横に立ち、一言二言話しかけるだけだ。あとはじっくりその動きを見ている。選手と信頼関係ができているように感じる。 「基本的に野手も投手も見ていますが、野手は“普通のゴロを普通に捕って、投げてアウトにする”ことを重視しています。投手には『練習でやっていることしか、ゲームでは出せない』と言っています。練習で本気が出せない投手は、ゲームには出さない、と常に言っています。投手は『プロ枠』の選手を獲得しているので、どうしても彼らを優先することになりますが、彼ら3人がしっかり投げれば、他の選手もついてくると思いますね」
データ野球に積極的になったワケ
指導法とともにこのチームで特筆すべきは、社会人の新興チームでありながら弾道測定器「トラックマン」を採用するなど、データ野球に積極的な点である。 トラックマンの野球部門責任者である星川太輔氏から購入した。さらに使用法とデータの見方を学ぶために、星川氏の紹介で、立命館大学大学院でスポーツバイオメカニクスを研究する田原鷹優氏を3カ月間、アドバイザーとして招いた。社会人野球チームの中には、大企業傘下でも未だに計測機器と言えばスピードガン程度のチームもある中で、画期的なことだと言える。 田原氏は「亀澤監督は、データ野球について深く理解しているし『こうしたらどうかな』といろいろ提案してくれる。すごくやりがいがあります」と語る。一方、トライアウトから5年、選手から指導者に立場を変えた亀澤はこのように話していた。 「指導者になって丸3年ですが、本当に難しい。いろんな人に話を聞いてやっていますが、チームが強くならないのは僕が悪いので、そういうときは選手に謝っています。僕が中途半端なことをしていると選手に伝染します。まず、僕がしっかりとチームを把握して、一人一人を成長させないと。そして何より選手が主役ですから、選手が成長してチームが強くなるのをバックアップしたいですね」
退潮気味の社会人野球の新風に
社会人野球では、日産自動車が15年ぶりに野球部を再開させた一方で、大手企業傘下のチームが予算を縮小する動きが大きい。 一方、地方には「本当の野球好き」が小規模ながら、意欲的なチームを立ち上げるのが目立っている。こうしたチームが、退潮気味の社会人野球に新たな風を吹き込みつつある。 亀澤監督とショウワコーポレーションのひたむきな努力に、今後も注目していきたい。 〈トライアウト特集:つづく〉
(「酒の肴に野球の記録」広尾晃 = 文)
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