再選狙う小池都知事がぶち上げていた「満員電車ゼロ」「多摩格差ゼロ」の鉄道整備計画は本当に実現できるのか?
■ 通勤ラッシュ再び激化でも「時差Biz」特急を復活させない理由 鉄道事業者はラッシュ時のために車両や乗務員を多めに揃えなければならない。それは車両運用面でも人員面でも非効率になるので、鉄道事業者にとっても混雑の平準化はありがたい話でもあった。 小池都知事は時差通勤を「時差Biz」と言い換え、企業への普及を図った。それに呼応して、東急電鉄は2017年7月に田園都市線で時差Bizライナーの運行を開始した。時差Bizライナーは臨時特急という扱いなので10日間の限定運行だったが、好評を博したことから2018年と2019年7月にも臨時列車として運行された。 田園都市線を走る時差Bizライナーは中央林間駅を朝6時台に出発し、特急に相応しく停車駅は長津田駅・あざみの駅・溝ノ口駅・渋谷駅と少なく、驚くほど“速い”列車だった。そして、渋谷駅から先は地下鉄半蔵門線へと乗り入れるが、こちらは各駅停車になっていた。 田園都市線でもっとも停車駅が少ない急行は、中央林間駅―渋谷駅間で9駅も停車する。東急は東横線でも2018年から時差Biz特急を臨時列車として運行したが、こちらも評判が良かったので2019年にも運行された。 時差Biz特急は東横線で日常的に運行されている特急と停車駅は同じで、平たく言えば特急列車が一本増発されたに過ぎない。それでも特急を増発したことで混雑は平準化され、車内が快適になった。それは利用者にとって大きなメリットでもある。 そして、小池都知事が提唱した時差Bizは、JR東日本や東京メトロ、西武鉄道にも広がる。これら3社はアプリなどIT技術を駆使して混雑の見える化を促進し、オフピーク通勤の拡大を狙った。 東京都と鉄道事業者の試行錯誤は、2020年から新型コロナウイルスが感染拡大したことで図らずも解消に向かう。3年連続で時差Bizライナーを走らせた東急は混雑対策に取り組む必要がなくなり、2020年からは運行していない。 コロナ禍が収束すると、再び首都圏の鉄道は混雑率が上昇。それでも現段階で時差Bizライナー・時差Biz特急どちらの復活もアナウンスされていない。 その背景には、鉄道やバス業界の運転士不足がある。皮肉にも、小池都知事が就任直後から提唱してきた「働き方改革」が世間にも浸透し、働き方改革関連法によって時間外労働時間の上限規制が適用されるようになった。 その影響から運転士が不足し、列車の増発が難しい状況に陥っている。これらを解決するには運転士の待遇を改善する必要があるものの、思うようには進んでいないのが現状だ。