他者からの承認を求めることは人生にとって薬にも毒にもなる…脳科学者が「マウンティングばかりのグループからは抜けなさい」と勧める理由
SNSでつながっている仲間から「いいね」をもらうことは嬉しいもの。それをうまく励みにすることはやる気につながるが、一方でリスクや注意点もある。 【写真】脳神経外科医の菅原道仁氏 脳神経外科医の菅原道仁さんが、人をやる気にさせる「ドーパミン」の力を活用して脳をその気にさせる方法を綴った『すぐやる脳』(サンマーク出版)から一部抜粋、再構成してお届けする。
アドラーが「不自由」と説く「承認欲求」とは?
他人に褒められたり感謝されたり、「誰かの役に立った」と実感できたとき。そんな瞬間も、ドーパミンは分泌されます。 心理学的に言うと、「承認欲求が満たされた」と表現します。「承認欲求」(esteem needs)とは、「他人から認められたい、尊敬されたい」と願う気持ちのことです。 アメリカの心理学者、アブラハム・マズロー氏が提唱した「マズローの欲求5段階説」(Maslow's hierarchy of needs)では、5つの欲求(生理的欲求、安全欲求、社会的欲求、承認欲求、自己実現欲求)のうち「4番目の欲求」に位置付けられています。 衣食足りて、高度に文明化された現代では、物質的な欲望よりもむしろ「社会的に評価されたい、人に認められたい」という承認欲求のほうが強い、と言えるかもしれません。 この承認欲求が「満たされた」と感じた瞬間も、もちろんドーパミンは出ます。人に認められるというのは、脳にとっては大きな報酬なのです。
「他者の人生を生きることになる」
しかし、そこにはある種のリスクもひそんでいます。 「承認してくれる」のが他人であるということは、常に他人の視線や評価を気にかけることになります。 身近な例で言うと「『いいね』の数を、常に確認せずにはいられない」「『いいね』の数に一喜一憂する」ということになりかねません。それはけっして「心が自由な状態」とは言えないでしょう。 そのあたりの問題については、300万部を突破したベストセラー『嫌われる勇気──自己啓発の源流「アドラー」の教え』(岸見一郎・古賀史健著/ダイヤモンド社)でくわしく説かれています。 本書は有名なアドラー心理学をわかりやすく解説したものですが、承認欲求については「不自由」というとらえ方をしています。他者からの承認を求めてばかりいると、最終的には「他者の人生を生きることになる」というのがその理由です。 同書には、次のような記述もあります。 「自らの生について、あなたにできるのは『自分の信じる最善の道を選ぶこと』、それだけです。一方で、その選択について他者がどのような評価を下すのか。これは他者の課題であって、あなたにはどうにもできない話です」 ただし、科学的に見ても「他者に承認を求める気持ち」は健全なものです。それを完全に抑え込んだり無視したりする必要はありません。 「褒められること」は脳の栄養、などと形容する専門家もいるくらいです。