フェラーリ「308」や「デイトナ」でサーキット走行するプログラムとは? 跳ね馬ブランドだから可能な「コルソ・ピロタ・クラシケ」がスゴすぎた!
現代のクルマが失ったドライブフィールを体感する
厳格に仕切られたシフトゲートからシフトレバーがひょろひょろと長く生えている。この様子がたまらない、と同時に一気に緊張を誘う。すでにエンジンは暖まっていたので、キーをひねれば簡単にかかった。1日の始まり、キャブエンジンのコールドスタートならきっとカブらせては一大事ときっと緊張したことだろう! クラッチペダルはさほど重くない。とはいえ昨今めっきり使わなくなった左足には負担だ。ワイヤーで物理的に繋がっているというABCペダルの操作フィールにも多少戸惑う。昔はみんなそうだったのに。電気信号のペダルに慣れきってしまっているのだ。そのうえキャブ車である。アクセルをガバッと開けたりすればクルマが咳き込む。クラッチをゆっくりとつなぎ、じわっとスロットルを開けて、エンジンの機嫌を伺いつつ走り出す。 野太くたなびくエキゾーストノート(決して甲高くはない)もさることながら、空気を盛大に吸いこむ音と、それに続く背後のメカニカルノイズが耳に心地いい。2速ギアはかなり渋めで入れづらいけれど、徐々に暖まってスムーズになっていく。 濡れた路面でのV8ミドシップゆえ、ハイパワーとはいえないけれど油断すると立ち上がりで尻が大いに乱れる。タイヤも細いのだ。クルマとの絶え間のないコミュニケーションがじつに愉快だというべきで、現代のクルマが失ったドライブフィールのひとつであろう。 だんだんとペースを上げていく。踏み込んでもコントロールできる範囲のパワー(グロスで255ps)だから、キャブエンジンの扱いにさえ慣れてくれば、かなり思い切って走らせることができる。
モンディアルのライド感がことのほか楽しかった
次はモンディアルへ。こちらはインジェクション仕様だったから、少しは気がラクだ。そのぶんクルマとの対話性は少し薄れるか。しかし、それがまたクルマの進化というものだろう。 大発見だったのが、このモンディアルのライド感がことのほか楽しかったこと。+2ゆえのロングホイールベース、ギア比もフィオラノに合っていて、濡れたサーキットでもじつにコントローラブルで正に水を得た魚のよう。308GTBよりも圧倒的に踏みやすく、曲げやすく、攻めやすい。この日試すことのできた全てのモデルの中で最も楽しいクルマだったと、この日集まった世界のジャーナリストからも同意を得た。その場でみんなが自国の中古車サイトを検索しはじめたほど(日本の相場が最も安かった!)。 550マラネロはFRの12気筒パワーだけあって、308やモンディアルよりもつねにひとつ上のギアを使ったコーナリングが安全で望ましいとのアドバイス。たしかにそれでも不満なく走ってくれるが、ダイナミックさに欠けるし、サウンドも静かに収まる。見た目から想像できるように、いかにもグラントゥーリズモな乗り味に終始した。 濡れたスキッドパッドでは308を使った8の字走行やジムカーナを体験した。テールスライドへの持ち込み方や視線の保ち方、アクセルコントロールの方法などを学ぶ。308でのドリフト体験など、自分のクルマなら絶対にやりたくない(まともに走っても壊してしまいそうだ)! 旋回練習で、すっかり腕がだるくなった。体力のなさを痛感。そしてプログラムの締めくくりはデイトナだ。インストラクターいわく、「レッスンを1日頑張ったご褒美的」というわけで、じっくり丁寧に味わうようアドバイスされる。なんでもギアボックスが壊れやすく、クラシケ部門にももう余分な在庫はないらしい。丁寧に操作しつつ、キャブレターV12をじっくり味わった。 初期型のプレクシデイトナ(12チリンドリに似ているじゃないか!)で、しかも唸るほど重いペダルと重いハンドルとなれば、なるほど言われなくても慎重なドライブに。それでも速度を徐々に上げていくと、フィオラノの景色が1970年代にタイムスリップした。ピットに戻ればエンツォが渋い顔で出迎えてくれるに違いない。
西川 淳(NISHIKAWA Jun)