81歳、家族の病気や死を経験した波乱万丈人生。乗り越えた今は「やりたいことをやる」
息子が病気で最重度の知的障がい者に。人と比べて苦しい日々
多良さんにとって大きな出来事が起こったのは、結婚して息子、娘が生まれて間もない頃でした。4歳の息子が麻疹(はしか)にかかり、容態が急変。そのまま最重度の知的障がい者になってしまったのです。 「命も危険な状態で、意識が戻ったときは医師からも『奇跡だ』と言われました。でも、大変なのはそれからでした。脳の中のバランスが崩れてしまったのか、とにかく息子から24時間目が離せないのです。私が、生活全般を支えることになりました」 そんな中で、辛かったのは、近所の同じくらいの年齢の子どもたちの元気な姿を見ること。ほかの子どもたちと息子を比べて、落ち込む日々でした。 「そこで、思いきって引っ越すことにしました。何事も逃げないことが大事と思っていますが、このときは逃げました。でも、逃げて正解だったと今でも思っています」 最初は、環境が変わっても息子の障がいを気にして、「だれとも会わずにひっそりと暮らそう」と思って、家に閉じこもりがちでした。そんな多良さんが変わったのは、「障がい児・者の親の会」のお母さんたちとの出会いでした。障がいがあっていても「一人の人間として育てたい」というお母さんたちの姿勢に、励まされたのです。 さらに、親代わりだった4番目の姉から「この子は福祉の世界で育てなさい」と言われたことも、ハッとさせられました。なかなか息子の障がいを受け入れられず、悶々としていたので、この言葉に目が覚めたのです。そして、やっと息子のことを受け入れ、「病気の子どもと一緒に生きていこう」と覚悟を決めました。 「そうしたら、不思議と湯水のように元気が湧いてきました。3年もかかってしまいましたが、私には必要な時間だったと思います」 それからは、息子は養護学校、中学、高校、通園施設を経て、今は28歳のときに入所した生活介護事業所にいます。月~金は施設で暮らし、週末は自宅で過ごす生活をしています。