「主審のレベルがあまりに低すぎ」誤審乱発のパリ五輪、柔道からJUDOとなって〝秩序が乱れた〟事情
日本発祥のスポーツで唯一の実施競技で、日本のお家芸といわれてきた柔道。だが、パリ五輪では男女の個人・混合団体で獲得したメダルは金3個、銀2個、銅3個という結果に終わった。最終日の団体戦では開催国であり、柔道の競技人口が日本の4倍というフランスに敗れ、銀メダル。五輪の柔道競技史上過去最多の金メダルを獲得した、’21年の前回東京五輪の金9個、銀2個、銅1個から大きくメダルを減らす結果になってしまった。 【会場からはブーイングが】すごい…〝疑惑の1本判定〟に抗議して握手を拒否する永山竜樹 その要因の1つとして、世界各国の柔道の競技レベルが〝底上げ〟されたことがあげられる。しかし、日本選手団の勝敗をとくに大きく左右したのは審判による数々の〝誤審〟だった。 その中でも、とりわけ物議を醸したのが、柔道競技の初日に男子60キロ級に出場した永山竜樹(28)とスペインのフランシスコ・ガリゴス(29)の準々決勝だ。 寝技の攻防が膠着したため、主審を務めるメキシコのエリザベス・ゴンザレス氏(37)が「待て」を宣告したが、ガリゴスは数秒間、絞め技の状態を継続し、その結果永山が失神。一本負けを喫したのだ。 「ガリゴスは『待て』の声が聞こえなかったと言っていたが、主審はガリゴスが絞め技を継続している時点で2人の間に割って入らなければなかった。柔道の主審をしていればそんなことは常識なのに、あまりにも主審のレベルが低過ぎました。 柔道の国際試合では主審の他に副審2人がいて、ビデオ判定をする審判委員(スーパーバイザー)は3人で構成されているが、絶大な権力を持つのは主審。五輪の主審は各大陸の柔道連盟から推薦された16人が務めることができるが、あまりにも上下のレベル差があり過ぎ、畳の上の〝秩序〟が乱れきっているのが現状です。 そんな中でも、東京五輪に続いて日本人で唯一の主審を務めた天野安喜子さん(53)は安定して堂々と正確なジャッジをしていました。日本人の主審をもう1人増やすのは難しいでしょうが、今後の国際大会での〝誤審〟を減らすため、国際柔道連盟(IJF)は審判員の育成が大きな課題となるでしょう」(スポーツ紙の五輪担当記者) 柔道競技では、五輪などの国際大会はIJFのルール、日本国内の全日本柔道連盟(全柔連)の管轄下の大会は講道館ルールというダブルスタンダードだった。IJFがどんどん国際ルールを改正していく中で、講道館ルールはそれに寄り添う形となっていった。 「もともとは白の柔道着のみ着用OKだったのが、両選手が分かりやすいように青の柔道着を導入したことをはじめとして、様々なルールがIJFによって改正されました。帯から下を持つことの禁止、反則ポイントの『指導』3つで反則負け、『技あり』以下のポイントである『有効』『効果』の廃止、寝技で押さえ込んでの『一本』、『技あり』の時間短縮などです。 もちろん、ルール改正によって日本の選手にメリット・デメリットはありますが、まだまだ国内では国際ルールと大きく違うところもあります。国際ルールは4分間の本戦終了後、『ゴールデンスコア』による完全決着ですが、国内では団体戦では引き分けがあったり、体重無差別の全日本選手権では両選手のポイントが並んで試合終了の場合、審判と副審の旗判定で勝負を決することになります。 IJFで日本が力を持っていたとしたら、団体戦での引き分けの導入など、講道館ルールの要素を導入させることができていたかもしれません。しかし、現状、世界の柔道界において、日本の政治力および外交力はまったくなく、柔道の発祥国ながら〝教育的指導〟ができる立場にありません」(全柔連関係者) そうなってしまったのは、1984年ロス五輪の柔道男子無差別級金メダリスト・山下泰裕氏(67)が、’07年9月にIJFの理事に落選したのが発端だったという。山下氏といえば、前人未踏の203連勝を飾ったままで引退し「日本柔道界最強の男」と称され国民栄誉賞を受賞した柔道界の〝レジェンド〟だ。東海大の創設者である故松前重義氏が1979年から1987年まで務めて以降、日本人のIJF会長は誕生しておらず、柔道界における功績・実績だけなら、山下氏はこれ以上ない適任だったはずなのだが……。 「山下氏は、自分が柔道・男子の監督だった’00年のシドニー五輪で起きた、篠原信一(51)の銀メダル誤審問題に責任を感じ、一念発起しました。’03年IJF総会で教育・コーチング理事に立候補し当選。ルールなどを含めた国際柔道競技の改革に務めたのです。 しかし、’07年に再びIJFの教育・コーチング理事に再度立候補するも、アルジェリアの候補者に大敗。その際、山下氏の対立候補を支持したのが、同年にIJFの会長選に勝利して就任したマリウス・ビゼール氏(65)だといわれています。 それでも、ビゼール氏は東京五輪に向けて日本を取り込むため、’15年に突如、会長権限で山下氏を理事に復帰させ、現在も山下氏は理事を務めています。しかし、理事選に勝利しての就任ではないので、議決権はなし。いわば、発言権のない〝お飾り〟的な立ち位置なのです。それ以前に山下氏は英語があまり得意ではないので、海外の政治力のある猛者とは対等に渡り合えてきませんでした」(同前) ビゼール氏はルーマニアで生まれ、オーストリアに渡って苦労しながらカジノ事業などで財を成し、豊富な資金力を武器にIJFで実権を握り続けほぼ独裁体制を築き上げた。ビゼール氏の意向により、世界選手権に続き、東京五輪から混合団体戦を柔道競技の五輪種目に新たに導入した。代表戦の階級選択には東京五輪からコンピュータ抽選を取り入れ、パリ五輪からはルーレット方式の演出を導入している。 パリ五輪の混合団体決勝の日本対フランスでは、3勝3敗で迎えた代表戦の出場者を決める「デジタルルーレット」で「男子90キロ超級」に決定。フランスの同階級の選手は今大会の100キロ超級で金メダルを獲得した国民的英雄のテディ・リネール(35)だった。結果、日本の斉藤立(22)は一本負けを喫して、フランスが東京五輪に続いて混合団体の金メダルを獲得することとなった。これに対して日本国内では抽選の不正を疑う声が上がり、SNSでは〝ズルーレット〟などと批判する声が噴出していた。 「山下氏のIJF理事の任期は来年6月までですが、現在、頸椎損傷で療養中。日本オリンピック委員会(JOC)会長職とともに、これ以上続けるのは厳しいでしょう。今後は、シドニー五輪男子100キロ級で金メダルを獲得して東京五輪では男子の代表監督を務めた井上康生氏(46)、’16年のリオ、東京の男子73キロ級を連覇し、イギリスにコーチ留学している大野将平氏(32)ら、柔道の実績があって、国際的な感覚を身に付けた人材をIJFに送り込まないと、乱れた柔道界の〝秩序〟を正すことはできません」(先の記者) 日本柔道の復権は、競技力の向上だけではかなわないようだ。
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