もうG7はオワコン!? 「BRICS時代」に日本はどう生き残るべきなのか?
■ユーラシア大陸からアフリカに続く帯 第2のポイントはBRICSの「拡大」だ。2010年以来、5ヵ国体制が続いていたBRICSだが、昨年のヨハネスブルク・サミットでアルゼンチン、エジプト、エチオピア、イラン、サウジアラビア、UAEの加入を承認。 その後、アルゼンチンが加盟方針を撤回し、サウジアラビアも態度を保留しているため、現時点での正規加盟国は9ヵ国となっている。 今回のカザン・サミットでは新たに「パートナー国」という制度を設け、インドネシア、ベトナム、ウズベキスタン、タイ、マレーシア、トルコ、ベラルーシ、カザフスタン、キューバ、ボリビア、ナイジェリア、アルジェリア、ウガンダの13ヵ国が加わることとなった。 「BRICSはもともと南米のブラジル、ユーラシア大陸のロシア、南アジアのインド、東アジアの中国、そしてアフリカ大陸の南アフリカと、欧米ではない各地域の有力国の代表による〝非欧米地域のG5〟というイメージで始まりました。 そんなBRICSが、昨年あたりから大きく拡大基調へとかじを切ったのです。これもウクライナ侵攻後に制裁をかけられたロシアや、米中対立に直面する中国の『BRICSを欧米諸国に対抗する勢力として育てていこう』という野心が反映されているといえるでしょう。 特にエジプト、イラン、UAEとエチオピアが正規加盟国に加わったことで、ロシアから中東、さらにアフリカにつながる太い帯がBRICS加盟国によって形作られたことは地政学的に大きな意味を持っている。 また、アメリカとの関係が強く反中的な色彩が強いフィリピンを除けば、インドネシア、マレーシア、タイという3つの有力国がパートナー国に名を連ねていて、ここでは中国を中心としたBRICSの影響力がASEAN地域に面として食い込んでいる流れがくっきりと見えます」
■欧米優位時代の終焉の象徴 もうひとつ、篠田氏が指摘するのが「脱ドル化」だ。 今回のサミットでは現在、米ドルを基軸通貨とする国際的な決済システムとして独占的な地位を占めているSWIFTに代わる仕組みとして、BRICS Payと呼ばれる新たな決済システムの導入を決定。これにより、米ドルに頼らず自国の通貨で取引が可能になるという。 「アメリカの覇権は、『世界的に展開できる圧倒的な軍事力』と、『国際的に基軸通貨として流通するドルの力』によって支えられてきました。 ロシアのウクライナ侵攻に対する経済制裁の一環として、SWIFTからロシアを締め出したのも、こうした国際金融・商取引におけるドルの支配を前提としたものです。 しかし、今後、BRICS加盟国が脱ドル化を進めれば、アメリカは覇権国としての大切な足場を失い、同盟国も含めて国際的な影響力を大きく低下させるのは明らかで、トランプ氏もこの点を懸念しているといわれています」 ちなみに、BRICSの主要加盟5ヵ国に限っても「購買力平価GDP」の合計は、2021年の時点でG7加盟国の合計を上回っており、現時点で世界のシェアの3分の1を占めているといわれている。加盟国の拡大でその差がさらに広がるのは確実だという。 また、5ヵ国だけで世界人口の4割以上を占めており、加盟国とパートナー国を入れれば半数以上になるともいわれている。 「G7に代表されるような欧米諸国は、大航海時代から産業革命を経て、近代という大きな時代の中で世界の支配者となり、第2次世界大戦後も先進国としての地位を守り続けてきました。 とはいえ、その『近代』もせいぜい200~300年程度と、人類の長い歴史から見れば、ほんの一瞬でしかない。当然、欧米の優位も永遠に続くものではなく、長く続いた欧米の支配に対するBRICSの挑戦がその象徴だと考えれば、今、私たちは大きな歴史の転換点を目撃しているといえるのかもしれません」 では、もともとは歴史的にも地理的にも非欧米の国でありながら、欧米諸国と共にG7の一角を占め、特にアメリカとの親密な関係に依存してきた日本は、そんな歴史の転換点でどのように振る舞い、新BRICS時代に向き合ってゆけば良いのだろうか? 「ここでいきなり方針を変えてBRICSに加わるのは現実的ではないし、結局これまでどおりアメリカを中心としたG7の中で折り合いをつけていくしかないと思います。 ただし、この先、アメリカの覇権やG7先進国の相対的な影響力が落ちていく現実を直視して、自分たちの立ち位置を考えないと大きな間違いを犯す可能性がある。 最近『いざとなったら中国と戦争だ』とか、逆に『対米依存を離れて中国やBRICSに近づくべきだ』といった極端な意見を目にすることも多いですが、国際政治の現実はそれほど単純じゃない。 これまでどおり、G7の国々と仲良くしながらも、BRICS諸国との冷静かつ温和な付き合い方も勉強しないといけないということだと思います」 新BRICS時代の到来で、日本はますます外交力を磨く必要がありそうだ。 取材・文/川喜田 研 写真/時事通信社