ホン・サンス作品への出演は「休息であり魔法のような時間なんです」主演俳優が明かす撮影現場<脚本は当日朝、16分超の長回しも>
ワインを飲むシーンは16分越えの長回し
──本作も過去作同様に、ロングテイク(長回し)がありますね。ロングテイクは大変じゃないですか。 クォン ワインを飲むシーンが16~17分ありますね。これまでで一番長いのではないでしょうか。 この間、3人の俳優はセリフを間違いなく自然に会話を続けなくてはなりません。監督はセリフ一文字も変えないことで有名な方ですが、これには大変な集中力が必要になります。 実際にこのシーンを撮っている間、自分が芝居をしている感覚はありませんでした。ただ、相手の話を熱心に聞いて、自分の主張をすること、それだけを考えていました。 監督はフィルムの編集段階で、撮影した順番を変えたりしません。 作品で見るその順に撮ります。だから最終日の最後の撮影がラストシーンになるわけですが、今回午前から始まって日が暮れるまで、その場面だけで30回を超えるテイクがありました。これが一番大変でした。 ──本作で一番印象に残るシーンはどこでしょうか。 クォン 本作は複雑な構造を持った映画です。一人の男の心の中にある欲望とその中から抜け出せない姿が、建物の階別で描かれるエピソードと絡み合っています。 ラストシーンで男はなかなか抜け出せなかった建物を出た後も、建物から離れられないのです。監督のこれまでの映画では見られなかった新しくて、同時に寂しくて興味深いシーンです。印象に残るのはやはりここですね。
ホン・サンス作品定番の「映画監督」「酒」
──ホン監督作品には映画監督の役が頻繁に登場しますね。 クォン 監督はもっともらしい叙事(ストーリーテリング)を極度に嫌う作家です。彼の話は、自分が知っていて周辺で見られるところから出発します。だから彼の映画には、悩む若い監督や失敗した監督、欲望に振りまわされる監督などいろんな監督が登場します。 本作も屋上でビョンスが「済州島で映画を撮る」と言う場面があります。これは「私が突破できることは映画を撮ることだけだ」と常に言っているホン監督自身に重なります。実際、ホン監督は本作が終わった後、済州島に行って映画を撮りました。 ──どの作品も必ずお酒を飲むシーンが出てきますが、その理由は。 クォン 監督にとってお酒は、人を率直にさせる装置なんです。自分の本心をさらけだし、相手の言葉に耳を傾けることができますから。監督の映画でお酒のシーンがない作品なんて想像もつきません。 ただ、10年前に比べると、最近のお酒のシーンはかなりマイルドになりましたね。以前のように激しく感情がぶつかるシーンもなく、お酒も焼酎からマッコリへと変わりましたし(笑)。 ──キム・ミニさんがプロデューサーとして参加しています。 クォン 監督の映画はプロデューサーとして介入する余地は少ないと思います。プロデューサーは制作の計画を立て、監督にアドバイスをすることが役割ですが、脚本自体がないのですから。 ただ、プロデューサーとしてのキム・ミニは、役者としてのキム・ミニよりはるかに生き生きしていると感じました。受動的な立場である役者に比べ、プロデューサーは能動的な立場だからだと思います。