ホン・サンス作品への出演は「休息であり魔法のような時間なんです」主演俳優が明かす撮影現場<脚本は当日朝、16分超の長回しも>
ホン・サンス監督の28番目の作品『WALK UP』で主人公のビョンスを演じたクォン・ヘヒョ。1990年にデビューして以来、映画やドラマ、演劇舞台を合わせ、100本をはるかに超える作品に出演するベテラン役者だ。 【写真】この記事の写真を見る(6枚) ホン・サンス監督とは2012年の作品『3人のアンヌ』の出演を契機に縁が始まり、現在にいたるまで未公開作を含め11本の映画に出演している。 ◆◆◆
撮影前日に「今回は君が主役になりそうだよ」
──ホン監督とはどのように知り合われたのですか。 クォン・ヘヒョ(以下クォン) 監督のデビュー作『豚が井戸に落ちた日』(96年)を観て非常に衝撃を受け、この監督とぜひ仕事をしてみたいと思い続けていました。 その後、2009年にムン・ソリさんと舞台をご一緒したのですが、その縁でホン監督が観に来られました。それがきっかけで、オファーが来て『3人のアンヌ』に出演が決まったのです。 ──本作の出演のきっかけは。 クォン ホン監督の制作方式は独特です。あらかじめ用意された脚本はなく、撮影当日の朝に渡されます。監督が映画を撮るときにまず先に決めることは、いつからいつまで映画を撮るという時間的な制限なんです。あるいは、ある場所を見て映画を撮ると決めるときもあります。 その後、その場所に誰々が立っていれば、話が出来そうだというイメージが浮び上がると俳優に交渉します。今回も同様でした。 「そこに行ったらとても興味深かった。いつからいつまで映画を撮らなければならないのだが、どんな話になるかまだ分からない。でもそこに君がいればいいなと思うのだがな」というように連絡が来たんです。 撮影前日になって「ところで私はいったいどんな役ですか」と尋ねると、「今回は君がリーディングロール(主役)になりそうだよ」とそこで初めて言われたんです(笑)。
「私はむしろそのやり方が好きです」
──撮影当日になって台本をもらうことは俳優として負担になりませんか。 クォン 私はむしろそのやり方が好きです。私たちの日常は今この瞬間が過ぎると、次はどんなことが起きるか分からない。監督の現場もそれと同じなんです。 現場に到着すると同時に、初めてセリフと向き合わなければいけない。脚本を渡されてから30分くらい経つと、「どう? 覚えた? じゃ、合わせてみようか」という監督の声で1時間ほどのリハーサルをへて本撮影に入ります。 現場では監督や俳優全員が集中しているので、たびたび予想もできないマジックのような瞬間が生じます。 ──監督の多くの作品に独特のズームイン・ズームアウトが見られますが、それはなぜでしょうか。 クォン 私が考えるには、ホン監督は、撮影現場のすべてを決定してしまう完璧主義者ではありません。自分が書いたセリフやカメラの中に盛り込む要素に常に悩みながら進める人です。 例えば、撮影現場で気になる木の葉があれば、それを作品に取り入れようとしてとっさにズームインをします。彼は話を伝えるのにカットを分けるのは役に立たないという確信を持っているようです。そのためでしょうか。