二度の大怪我から「復帰できなかった」湘南ベルマーレ・佐藤玲惟。苦しかった2年4カ月7日と、現役最後の“延長戦”【人生に刻むラストゲーム|Fリーグ 】
現役最後の公式戦、湘南・佐藤玲惟はユニフォームを着てピッチに立てなかった。 二度の大怪我を乗り越え、2023年春にどうにかチームに合流したものの、今シーズンの出場はゼロのまま、12月に現役引退を表明。12月9日のホーム最終戦で引退セレモニーをした試合も、元気な姿を見せた一方で、ベンチ入りすることができないまま、試合後にファン・サポーターの前で挨拶した。 迎えた全日本選手権。そこでも彼はベンチに入ることはなく、クラブのジャージを着て試合を見守った。 育成組織P.S.T.C.LONDRINA(ロンドリーナ)で育った生え抜きの選手は、27歳という若さでピッチを去る。クラブからの契約更新の提示はなく、とはいえ他のクラブに行くつもりもない。まさに苦渋の決断だった。 「途中で、もう辞めたいと思ったことはなかったのでしょうか?」 試合後の取材エリアに現れた佐藤に話を聞くうちに、不躾だとわかっていても、思わずそう問いかける。すると佐藤はニコニコしながらこう答えた。 「『待ってるよ』と言ってくださるファン・サポーターに、もう一度プレーを見てもらいたい。その気持ちだけで頑張れました」 その言葉こそ佐藤玲惟。「ミスター・ベルマーレ」を継ぐ選手と言われていた彼の、人柄そのものだ。 取材・文=青木ひかる
このままじゃ終われない
2021年10月に行われた、リーグ戦の第10節のシュライカー大阪戦で負傷し、約半年の離脱から復帰し迎えた、2022-2023シーズン。 「開幕からチームの力になりたい」と意気込んだオフ明け最初の練習試合。勢いよくシュートを打った瞬間に、覚えのある鋭い痛みが右膝に走った。 「一回経験しているから、同じ怪我だというのはすぐにわかりました。シュートを打つのに曲げた足は、膝がロックして伸び切らなくなってしまったので、すぐに交代してピッチの外に出ました。治すには手術しかない。もう終わったなって、その瞬間は思いました」 診断結果は予想のとおり右膝半月板の怪我で、今度は損傷ではなく断裂と診断された。前十字靭帯も痛め、全治は約10カ月。前回よりも怪我の状況は悪化していた。 もう選手として、ピッチに戻ることはできないかもしれない──。 “現役引退”の4文字が一瞬だけ脳裏によぎったが、すぐに「このままじゃ終われない」という思いが湧き上がってきたと、佐藤は当時の気持ちを振り返る。 「これが例えば、1回目の怪我から2、3年空いて、その後の大怪我だったら、逆にもうここで終わろうと思えていたかもしれない。だけど、シーズン前に誰にも復帰した自分のプレーを見せられずにまた怪我をしてしまったので、これは続けても辞めてもどちらにせよ辛いだろうと。だったら、やり残したことのために頑張ろうと、気持ちを切り替えることができました」 クラブからのリリースに集まったあたたかいコメントにも背中を押され、佐藤は現役続行のためにもう一度歩き出すことを決めた。