二度の大怪我から「復帰できなかった」湘南ベルマーレ・佐藤玲惟。苦しかった2年4カ月7日と、現役最後の“延長戦”【人生に刻むラストゲーム|Fリーグ 】
残る痛みと、ジレンマとの戦い
全治3カ月だった前回よりも、長いリハビリ生活。怪我をした瞬間や手術で入院していた時期以上に佐藤を苦しめたのは、ある程度回復し、松葉杖なしで歩けるようになってからだった。 「退院してからしばらくは、フットサルどころか普段の生活もままならない状態でした。全く傷まないという日はほとんどなくて、ずっと違和感がある。調子が良くなってある程度負荷をかけて走れるようになったかと思えば、次の日に痛みで目が覚めたり……。本当に自分はボールが蹴れるようになるのか、不安しかなかったです」 予定どおり、2023年の3月にチームに復帰してからも、利き足ではない左足でのキックを磨き、ここぞの時だけ右足を使うようにした。一度の練習で思い切りシュートを打てるのはせいぜい2、3本だ。 練習後には、クラブのスポンサーである小田原ガス営業部の社員として勤務する日々。立ち仕事も多く、膝の痛みは競技以外にも影響を及ぼした。 「仕事中も膝は重いし、本当は練習後に自主練や筋トレをしたいけど、そこで無理にやっちゃうとチームの練習で100パーセントを出せない状態になってしまう。どれだけやっても大丈夫な膝であれば、いくらでも練習後にシュート練習もするし、筋トレとか走り込みとか、やりたいことはもっとあったけど、できなかった。試合に出るために本当はやれることがあるのになっていうのは最後までありました」 もっとやりたい、でもできない。試合に出たい、でも出れない。 ジレンマとの戦いながらも真摯に練習に励み、リーグ戦で3試合ベンチメンバーに登録されたものの、プレー時間は0分だった。 オフシーズンを前に伊久間洋輔監督から「他クラブでプレーするという選択肢もある」と提案された。それでも、「湘南でプレーすること以外考えられない」と断りを入れ、フットサル選手としての人生に終止符を打つことを決めた。
ファン・サポーターがー用意した、特別な“延長戦”へ
「この2年間、何のために練習してるんだろうって思う時もありました。でも、これだけ試合に出れなくても、家族とファン・サポーターの皆さんが期待して応援し続けてくれたおかげで、腐らずにその頑張ってこれました。怪我がない人生を人生を歩みたかったけどやれることはやったし、本当に悔いはないです」 3月1日に行われた全日本選手権の準々決勝を終え、そう話す佐藤には、実は特別な“延長戦”の舞台が用意されている。 2016年以来約7年ぶりに開催が決定した、Fリーグオールスターゲーム。メンバーを決定するファン・サポーター投票で、佐藤は湘南代表として出場権を獲得した。 「本当にうれしいし、これもすごい運命だなって。今年たまたまオールスターが復活して、選ぶ方法もファン投票ということで、たくさんの方が僕に票を入れてくれました。ベルマーレファン以外の方も、『投票したよ!』と報告してくれて……。自分がこれまでやってきたことは、間違ってなかったんだと思うことができました」 話し始めた時には少し目元が潤んでいた佐藤だったが、最後は満面の笑みで3月19日に向けた思いを語る。 「フットサルのオールスターというと、テクニックを発揮する華麗なプレーが求められると思いますが、残念ながら僕はもともとそういうプレーヤーではありません(笑)。でも、自分らしいプレーを皆さんの前で見せられるように、もう体が壊れてもいいってくらい、万全に準備をしたいと思います」 ベルマーレを愛し、愛された佐藤は、これまでにないほど熱く激しく“湘南の情熱”の炎を燃やし、今度こそ正真正銘の“ラストゲーム”に臨む。