箱根駅伝Stories/王座奪還を目指す駒大 世界を目指す取り組みと両立 「箱根の借りは箱根で」
4人の3年生がそろい踏みなるか
駒大は今季の1歩目を出遅れていた。3冠を目指した張りつめた空気が解かれた1月、脚に痛みを訴える選手が続出したのだ。チームの空気を壊さないよう、ケガの申告を箱根駅伝後に遅らせた選手もいた。 そのスタートからすると、7~8月の鍛錬期は充実し、9月以降は個人レースで自己ベストがあちこちに飛び出し上昇ムード。出雲、全日本の戦いは大砲の佐藤を欠きながら、見どころを作る内容で2位。「春先の状況を考えたら成長だと思います」と篠原主将は言う。 チーム上昇の背景には、3年生カルテットの存在がある。伊藤蒼唯、山川拓馬、帰山侑大、そして佐藤。箱根駅伝では、それぞれに晴らしたい悔しさがある。 伊藤はチームでも一番練習する選手であり、今年は篠原との練習を志願。2月の丸亀ハーフマラソンで1時間1分16秒の快記録をはじめ、1年フル稼働した。全日本の3区で追い上げの起点となったが、「結局、区間賞が取れていないんです」と厳しい自己採点だ。 1年時の6区区間賞が輝くが、1年前はインフルエンザの影響が考慮され、出走メンバーから外れている。「箱根は一番得意な距離でもあり、チームのポジション的にも区間賞は取らなくてはいけない」と決意がにじむ。 山川は1月からケガの治療に時間を割き、7月に10000mの自己新で復帰。真にスイッチが入ったのは9月からだ。全日本の策長区間・8区での目の覚めるような追い上げ。日本人歴代2位のタイムにより、次元を一つ飛び越えた感がある。 それでも「途中で明らかにペースが落ち、まだまだ改善するところがあります」と、まったく満足していない。「もともと『山の神になりたい』と思って駒大に入りました。1年時は納得できる走りではなく、2年時は4区に回りチームに負荷をかけてしまいました。箱根の借りは箱根で返すしかない」と力強い。 帰山は上尾ハーフで1時間1分59秒を出し、チームに上昇気流を生み出した。もともとあるスピードと、下りへの適性に加え、長い距離に進境を見せる。1年前の箱根は区間12位の悔しさを置いてきたが、その6区にこだわっていない。 復帰へ調整中の佐藤が、思い出すのは1年前の3区の悔しさ。故障離脱中のチームを支えた仲間へ、感謝の気持ち。積み重なった思いを吐き出す機会を待っている。 山川、伊藤、帰山の3人が特殊区間の5、6区経験者であることが、作戦にバリエーションを生む。3年生カルテットが駅伝でそろい踏みしたことはまだない。それが叶えば大きな推進力になり、駒大の王座奪還が近づくだろう。
奥村 崇/月刊陸上競技