北村一輝「”おっちゃん”は料理人というよりキャッチャー。ライバルはドカベン(笑)」異色の配信ドラマへの意気込みを語る<おっちゃんキッチン>
民放公式テレビ配信サービス「TVer(ティーバー)」にて、北村一輝が主演を務めるTVerオリジナル新番組「おっちゃんキッチン」(全12話)が9月6日より順次配信開始となる。本作は、TVerとKDDIの共同制作による配信番組。駅前の路地裏に佇むこぢんまりとした大衆食堂を舞台に、北村演じる“おっちゃん”店主と、世代の異なる女性客とのほっこりしたコミュニケーションを描く。 【写真】板前姿も様になる主演の北村一輝 WEBザテレビジョンは初回収録の現場に潜入し、主演の北村にインタビュー。ここまで収録を終えてみての率直な感想や演じる上で心がけていること、役者として考える配信作品ならではの面白さについて語ってもらった。 ■手探りでものづくりを進めていく感覚が新鮮で楽しい ――ここまでの収録を終えてみての感想はいかがですか? 第1話も全て撮り終えていない状態で、まだ何とも言えない部分はありますが、まず僕がこの仕事を引き受けたのは、「TVerで新感覚のミニドラマを作りたい」というお話を伺った時に率直に面白そうだなと思ったこと、時代も変わってきているので、これからはもっと色んなことにチャレンジしたいという気持ちがあったからです。 加えて、今回はバラエティ番組を作ってきた方々が制作に携わっていて、そこに一番興味がありました。バラエティ畑の人と作るものってどういうものなんだろう?と。 実際、収録に入っても、やっぱり普段のドラマや映画の現場とは勝手が違うところも多々ありますし、色々とまだこれから擦り合わせは必要ですが、この手探りでものづくりを進めていく感覚が僕にとっては逆に新鮮で楽しいです。 ――まだ収録が始まったばかりですが、ご自身が演じられる“おっちゃん”の人となりや魅力は少しでも掴めましたでしょうか? まず、“おっちゃん”は基本的に無言です(笑)。台詞もほとんどがリアクション。編集で吹き出しにマンガのようにセリフが追加される予定です。毎回登場する女性客は心の声があり、別録りして後から映像に重ねるので、その場では身振り手振りだけで演技をしなくちゃいけない。例えば今回でいうと、“おっちゃん”は女性客の悩みや愚痴を聞きながら、カウンター裏で何かしら手を動かしているわけですが、「“おっちゃん”は果たして何がしたいのか?」という目的の部分をもう少しこれから詰めていく必要があるのかなと思っています。 ただ“おっちゃん”の場合、一つベースにあるのが娘との関係です。彼は普段あまり会話のない娘とスマホでメッセージのやりとりをしていて、そちらに気を取られながら仕事をしています。若い女性客の言葉をヒントに少しずつ娘との距離を縮めていく、という話になっています。 ――今回は大衆食堂というワンシチュエーションで“おっちゃん”と女性客の交流を描くシンプルな設定となっていますが、その上で心がけていることはありますか? 基本的にお店にやってきた女性客が愚痴や意見をぶつけてくるので、僕はそれを受け止めるだけといいますか、バッテリーでいえばキャッチャーのスタンスでいようと思っていますね。手探りで撮影を進めているからこそ、ゲストの皆さんも色んなお芝居を試せますし、これがうまくいって、いずれ若手俳優の登竜門的な作品になったらいいなと思います。 ――先ほど収録を拝見させていただいて、北村さんが第1話のゲストである杏花さんにアドバイスされている姿が印象的でした。ベテランとして若手に演技指導していこうという意識は普段から持たれているのでしょうか。 特に意識はしていません。長くやっているからといって自分の感覚が正しいとは思いませんし、やっぱり僕たちがいるのは正解がない世界なので、成功パターンを踏襲しても必ず成功するとは限らないんですよね。 ただ失敗に関しては、多分同じことをやっても失敗するんですよ。例えば、今回に関して言うと、ゲストの子たちはバーっとまくし立てるように悩みや愚痴を吐き出す長台詞が多いんですね。その中で「ちょっと台詞が間延びしてるな」とか「観る人がついていけなくて離れちゃうんじゃないかな」というように、経験上分かることがあれば、一つの参考として口うるさくない程度にお伝えできればいいなと思っています。 ■料理は基本的に全ジャンル作れます! ――今回はTVerとKDDIの共同プロジェクトということで、TVerでは通常の映像で配信されますが、SNSでは縦型ドラマとして視聴できる作品となります。 どちらかといえば、僕もSNSで流れてくる海外の縦型ドラマが気になって、課金を検討するほどハマるタイプですが(笑)。自分自身が縦型ドラマに参加するのは今回が初めてなので、まだ想像がつかない部分が多々あります。だから、今回に関しては自分がこれまで培ってきたものは一旦脇に置いて、新しいスタッフや若いキャストの皆さんが作るパターンに乗っかってみたいなと。ただ結果的に面白いものでなくてはいけないので、自分も意見は出しながら、一緒に続きをどんどん観たくなるような作品にしていけたらと思っています。 ――スマホの小さい画面で視聴される方も多いと思いますが、その上で意識されてることはありますか? 僕も小さい画面で視聴される方を想定して、先ほど「もう少し寄りのカットが必要なんじゃないですか」と監督にはお伝えしました。というのも、あまり引きのカットが続くと間延びしちゃうのと、小さい画面だと細かい部分まで見えないんですよね。それよりは寄りのカットが多くて短時間でもパッとわかりやすい印象がある方が、次にまだ観ようと気になるんじゃないのかなと思ったので、編集次第ではありますが、一意見としてお伝えさせていただいた次第です。 ――いわゆるグルメジャンルで括ると、過去には松重豊さん主演の「孤独のグルメ」や、小林薫さん主演の「深夜食堂」などがありますが、料理人を演じる上で参考にされた作品はありますか? いや、ないですね。むしろ過去の作品とあまり被りたくないなという気持ちもありますし、先ほども言ったように“おっちゃん”に関しては料理人というよりキャッチャーですよね。だから、ライバルでいうなら「ドカベン」かな?(笑)。ただただ黙って女性客の話を受け止める感じで、普通は喋りたくなったり目立ったりしたくなると思うんですが、今回に関しては若者のパワーが伝わればいいかなと思っています。 今はどちらかというと年配の方が観るような番組が少なくなっていて、僕もそうですけど、大人になればなるほど何を観ても面白くなく感じてしまう瞬間ってやっぱりあるんですよね。それでテレビから離れてしまう人がいる中で、今回は民放とはまた違う面白さを提供できるんじゃないかなと思っていて。要は若い女性客にリアルな不満を僕という立場を通して年配の方々が「なるほど、今の子たちはこういう風に思っているんだな」と気づきを得つつ楽しめる作品にできたらいいですね。 ――では、料理人としての役作りについてはいかがですか? 料理はプロの方が作ってくださっているので、僕はフリだけなんですよね。それなのにさっきの収録で、フォークが指に刺さって血が出ちゃいましたけど(笑)。あ、でも僕が作ってるように書いていただいてもいいですよ(笑)。 ――普段、北村さんはお料理をされるのでしょうか? 最近あまり料理はできていませんが、基本的に全ジャンル作れますよ。子供のお弁当もずっと作ってましたし、おつまみとかも食べたい時にすぐ食べられるようにタッパーで作り置きするタイプです。ただ最近はかっこよくなるためにダイエットをしているので、炭水化物はなるべく取らないようにしています(笑)。 ■観たい番組を消化しきれない…ありがちな悩みを解決してくれたTVer ――北村さんといえば、Netflixで配信中の「地面師たち」も大変な話題ですが、俳優さんから見た配信ドラマならではの面白さはどこにあると思われますか? 配信ドラマに関しては人により様々な考えがあり、よく「映画界にとっての脅威になるんじゃないか」とか言われることもありますけど、僕はどっちの楽しみもあっていいんじゃないかなと思います。僕はこれまでTVドラマや映画の世界で生きてきて、もちろん人生を賭けてやってきた仕事ではありますが、だからといってそればっかりを過大評価しすぎるのも変だと思いますし、配信だから映画だからとか関係なく自由に楽しく観ていただければそれでいいですね。その上で、配信ドラマの作品にもよりますが、ある程度予算もかけられますし、その分クオリティが高い作品も多いので僕もよくチェックしますし、出演する側としてもやりがいがあります。 ――「地面師たち」の撮影はいかがでしたか? 「地面師たち」に関しては絶大な安心感がありましたね。スタッフもキャストも技術と経験値の両方を兼ね備えた方が集まっていたので、人のことを心配する必要もなく自分の芝居に集中することができました。どんなことがあっても臨機応変に対応できる人ばかりだから、ピリッともしない現場でしたよ。撮影の合間はとにかくみんなでお喋りしていて、「本番でーす」って呼ばれたら芝居を始める、みたいな感じです(笑)。 ――今は演じる側のお話でしたが、ユーザーとして動画配信サービスを利用されることもありますか? 結構、利用してますよ。今日なんかも朝から晩まで撮影で、そうなってくると連ドラなんてリアルタイムで絶対観れないんですよね。だけど、やっぱりチェックしておきたい作品ってあるじゃないですか。そういう時はもうTVer一択ですね。今までは自宅のテレビで録画してたんですが、なかなか家にいる時間もなかったりして溜まってくると「もういいや」ってなっちゃうんですよ。そこを解消してくれたのがTVerですし、サービスが始まった時は「よっしゃ!」って思いました(笑)。TVerならどこでも観られるし、どこまで観たかも分かりやすいので使い勝手がいいですよね。 ――北村さんはTVドラマや映画では常にご活躍ですが、今年4月にミュージカル初出演されたり、配信ドラマにもチャレンジされたりと、さらにフィールドが広がる中で、ご自身の今の心境としてはいかがですか? 率直に楽しいですよ。昔は「役者バカにならなきゃいけない」と言われることもありましたけど、今はむしろ「周りが見えなくなるから副職を持て」と言われる時代ですよね。それに、人生1度きりなんですよ。僕はずっとそれを思っていて、だからこそ色んなことにチャレンジしたいしたいんですよね。もちろん役者の仕事が好きなので、まずは俳優業という枠の中でも幅を広げていけたらいいなと思っています。先のことを考えて行動しないより、「これでダメだったら最初からダメだったんだ」ぐらいの気概でチャレンジして、若い世代の人たちに挑戦することは悪いことじゃないと伝えられたら尚嬉しいです。 ――だからこそ、今回の作品にも挑戦してみようと思われたんですね。それでは、最後にこのインタビューを読んでいる方にメッセージをお願いします! まだ探り探りなところがあり、最終的にどんな作品になるかは分かりませんが、僕は一番このドラマが届けたいのは「若者の本音」だと思ったんですよね。言論の自由があるようでないような時代にどんどんなってきている中で、多分一番言葉を発するのって若者だと思うんですよ。いつの時代もそうですけど、凝り固まった社会をほぐしてくれる若者の言葉って僕はすごく重要だと思っていて。その中には間違いもあるかもしれないですけど、逆で正解だけがいいとも限らないし、決して侮れない。だから僕もこの作品で少しでも多く考えさせられる若者の言葉を引き出していきたいと思っているので、この自由に物言えぬ窮屈な時代に若者の本音に触れてみたい方はぜひ観ていただきたいと思います。 ■取材・文/苫とり子
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