福士蒼汰×松本まりかの役者の業「一瞬の快感を味わいたくて、お芝居を続けている」
これほど極限状態に行ける作品とめぐり会えることはそうない
――壮絶だったのは、佳代が四つん這いになってこれまでの経歴を圭介に告白するシーンです。答えるのも大変なシーンかもしれませんが、あの場面を少し振り返っていただけますか。 松本 極限状態でした。役と同化する感じで、自分も追いつめられているけど、佳代も追いつめられているから、それではそれでいいやと思うしかないというか。抜けられない沼の中にいて、どんどん深みにハマっていくような感覚でした。早く抜け出して楽になりたいんです。でも、佳代が同じ状況なら、私もこの感覚をそのまま持っていってやろうと。 ――そこには、佳代と同じような、ある種の恍惚もあるのでしょうか。 松本 キツかったからこそ、そう感じていたのではないかと思います。そこまで極限状態に行かせてくれる作品とめぐり会えることもそうないですし、この作品はそれほどの作品でした。作品に力がなければ、極限までは行けない。それだけの作品にめぐり会えた喜びはあった気がします。 ――圭介は、佳代の告白を聞きながら瞼に涙をためていました。あの涙はト書き通りですか。 福士 実はあまり覚えていないんです。 松本 ト書きには書いてなかったですね。 福士 自分の中でそういう心理状態に持っていかれていたのだと思います。佳代に向けて言った言葉が、全部自分に返ってくるような感じがして。圭介は、佳代にすべてをさらけ出させようとする。でもそれは同時に自分の開示でもあったのではないかと思います。佳代を通して自分を見つめているようなシーンです。
嫌われる覚悟で距離を保っていました
――映画の中では緊迫した関係だったので、素のお2人がなごやかな雰囲気でちょっとホッとしています(笑)。 松本 でもね、撮影中は、福士くんのこと嫌いでした(笑)。 福士 今回は現場で雑談などは一切交わさず、嫌われる覚悟で距離を保ちました。 松本 ほとんど話さなかった。 福士 僕は人とお話しすることが好きで。現場でも自分から積極的に話しかけるタイプなんです。でも今回は、現場で僕が笑顔を見せたら圭介という人物が完成しない気がして。今思い返せば本当に申し訳ない気持ちになるのですが、松本さんに対してだけ距離を置いていました。 松本 嫌いだった~(笑)。でもそれがいいというか。サディスティックなんだけど、色っぽくて惹かれちゃう。福士さんって優しくて爽やかなイメージがありますけど、私は本当はこういう人だっていまだに疑っています(笑)。 福士 僕が本当に圭介のような人物だと思われるんですか? 松本 仮の姿です(笑)。でもそれが魅力なんですよ。むしろもっとそういう顔を見せてほしい(笑)。 福士 そう言っていただけるようになってよかったです。 ――ハードな役だったと思いますが、もう一度この役を演じられるとしたら、やりたいですか。 福士 この先の圭介には興味があります。この先どういう人生を送っていくのか想像がつかないので、彼の今後を演じられるなら面白そうです。 松本 私はやりたいです。本当に追いつめられましたけど、その先に見えるもの、手にするものがものすごく大きかったので。この映画をやるまで、様々なことに追われる日々で、何を見ても美しいと感じられなくなっていて。でも、この映画のラストが朝焼けのシーンなんですけど、撮影当日、湖の前で朝日を逆光に準備しているスタッフさんを見て、久しぶりに心から美しいと思ったんです。それは、私が今まで見てきた中で一番美しい景色でした。そして、自分の限界に挑戦しなければ見られない景色でした。あのとき、明確に思ったんです、ここにいたいって。あの美しさに出会えるなら、また佳代という役をやりたい。今度は、あのときとは違う目線で演じられるかもしれないですしね。