米英がイエメンの「フーシ派」拠点を攻撃…船舶の安全確保には「攻撃」以外に方法がなかった西側の事情
船舶の安全確保は不釣り合いな労力を強いる
昨年12月、バイデン政権はイエメン沖の国際海運を守るためフーシ派の攻撃を抑止する20カ国以上の有志連合による「繁栄の守護者」作戦を開始。今回の攻撃はこの枠組みとは別だという。国連安全保障理事会は10日、フーシ派が商船への攻撃をやめるよう求める決議を賛成11カ国で採択した。中国、ロシア、アルジェリア、モザンビークの4カ国は棄権した。 バイデン氏は「これらの標的攻撃は米国とパートナーが自分たちの要員に対する攻撃を容認せず、世界で最も重要な商業航路の一つにおける航行の自由を敵対的行為者が脅かすことを許さないという明確なメッセージだ。必要に応じて、わが国の国民と国際通商の自由な流れを守るためのさらなる措置をとるよう指示を出すことを躊躇しない」と強調した。 リシ・スナク英首相も12日、英空軍が、フーシ派が使用する軍事施設に対し標的を絞った空爆を行ったことを明らかにした。「フーシ派の攻撃は重要な貿易ルートに大きな混乱をもたらし、商品価格を押し上げる。国際社会からの度重なる警告にもかかわらず、フーシ派は攻撃を続けており、英米の軍艦に対する攻撃があったばかり。これは絶対に許されない」 軍事シンクタンク「英国王立防衛安全保障研究所(RUSI)」のサム・クラニー=エヴァンズ准研究員は「紅海の安全確保:フーシ派の海上攻撃にどう対抗するか」という論考で「商船に対するフーシ派の攻撃は高度な兵器を使用しているにもかかわらず、初歩的なものだ。しかし西側がフーシ派の能力を効果的に低下させるのは難しいかもしれない」と記している。 クラニー=エヴァンズ准研究員は「対艦弾道ミサイルは技術的に重要な海上攻撃能力だ。非国家主体がこの種の兵器を保有し、それを平然と使用しているという事実には重大な懸念を抱かざるを得ない。フーシ派が使用できる最も洗練された兵器は対艦弾道ミサイルのアセフで500キログラムの弾頭を搭載でき、400キロメートルの射程を持つ」と解説する。 エヴァンズ准研究員によると、フーシ派はトラックから発射できる対艦巡航ミサイルのアル・マンデブ2も保有している。2016年以降、フーシ派は対艦巡航ミサイルを使って複数の船舶を攻撃し、損害を与えている。ドローンのサマド2やサマド3も使用できる。サマド3は爆発物を搭載して1500キロメートル以上移動できる。 「船舶の安全確保は攻撃側に比して、防御側に不釣り合いなほど資源集約的な労力を強いる。西側が直面する大きな問題はフーシ派のミサイルやドローンを迎撃すること自体が難しいということではなく、むしろそのためのコストと戦術的・戦略的効果のミスマッチだ。西側はフーシ派の攻撃を防ぐため高価な迎撃ミサイルを消費しなければならない」という。 ウクライナがロシアのドローン・ミサイル攻撃に苦戦しているのも攻撃に比して防御にコストがかかり過ぎるからだ。最も実行可能なアプローチは限定的だがフーシ派にとって貴重な軍事アセットに対する限定的な標的攻撃を行うことだという。攻撃こそ最大の防御なりというわけだ。 しかしイスラエルに不意打ちを食らわせたイスラム組織ハマスといい、フーシ派といいイランの支援を受け、軍事力を格段に向上させている。イスラエル・ハマス戦争をできる限り早く収束させないと火種は中東全域に広がり、鎮火するのはさらに困難になる。