山の恵へ感謝 ジビエを給食に提供 鳥取県大山町
イノシシ被害が深刻化
「今日もかかっとる」。5月末の朝、鳥取県大山町でイノシシ捕獲用の囲いわなを見回っていた米農家で大山ジビエ振興会長、安達忠良さん(72)が言い、ワゴン車を止めた。 【写真で見る】囲いわなにかかったイノシシ 農地の脇に置かれた広さ3畳のわなは、鉄網で囲った手作りだ。イノシシは体長1メートルあり、外に逃れようと鉄網に突進し始めた。やりを手に対峙(たいじ)した安達さんは、興奮させないよう帽子で視線を隠し、ゆっくり近づいていった。 「伯耆富士」の二つ名を持つ大山(標高1929メートル)の裾野に広がる町は、米や梨、ブロッコリーなど農業が盛んだ。一方で“イノシシの黄金地帯”と呼ばれるほどにイノシシは多く、作物の被害が深刻化している。 町は京阪神向けのジビエ(野生鳥獣の肉)産地だったが、「地域資源で地域経済を回そう」と安達さんや町議で猟師の池田幸恵さん(51)らが2015年に同振興会を発足。厳しい衛生基準をクリアしたジビエ加工施設を建て、トレーサビリティー(生産・流通履歴を追跡する仕組み)も導入、域内需要を掘り起こした。
料理が子供たちに人気
新型コロナ下の20年、外食需要を失った同振興会は、町の学校給食用にイノシシ肉100キロを無償提供した。ジビエ料理は子どもたちに人気となり、定期的な無償提供を続ける。 イノシシは鉄網を挟んで安達さんに飛びかかった。刹那、光る刃先が首筋の動脈を突いた。刺創から血液が流れ続け、11分後、イノシシは息絶えた。心臓を刺さないのは、動かし続けることで放血するため。「おいしい食肉」にする基本だ。 安達さんは山の恵みに感謝し、病気がないか調べ、加工施設で仲間と枝肉にして保冷庫につるした後、着替えて中山中学校に向かった。この日は別のイノシシ肉を使ったドライカレー給食の日。ジビエ活用について学ぶため、安達さんと池田さんが招かれたのだ。 同校は調理場併設の食堂で全校生徒と教員が共に給食を食べる。「牛や豚と同じようにイノシシが大好き」。1年の山田理華子さん(12)が笑うと、安達さんも笑顔になった。
日本農業新聞