自身初の2桁得点達成の東京V・FW木村勇大を支えた森下仁志コーチの存在 スランプに苦しむ若きストライカーに伝えた言葉とは
J1東京VのFW木村勇大(23)が、8月31日に行われた第29節の柏戦で自身初の2桁得点となるゴールを奪った。9得点でリーチをかけてから約2カ月以上、足踏みが続いていた木村。「なんでここで止まってるのか分からない」と“スランプ”に悩んでいた若きストライカーの支えになっていたのは、森下仁志コーチ(51)の存在だった。 スーパーゴールにも木村に笑顔はなく、何かから解放されたような表情で両手を広げた。0-1の前半15分、ゴール前中央でパスを受けると、持ち味のフィジカルで相手を振り払い反転して右足を一閃(いっせん)。リーグ戦11試合ぶりとなるゴールを決めた。クラブ公式Xで公開された試合直後のインタビュー動画で木村は「だいぶしんどかったです。周りの声も気になりますし、チームの代表としてワントップで使ってもらっている中で、なかなかチームとしても点がうまれてなかったので、すごい責任も感じてました。そういう意味でも決められて良かった」と心境を語った。 ゴールが足踏みしていた要因はさまざまだが、1つはチームのシステム変更への対応によるものだ。5月、町田に0-5と大敗したのをきっかけに4バックから3バックへ変更。これまでFW染野と2トップだった前線も木村の1トップ、2シャドーの形となった。これにより、木村へのマークが集中。被ファウル数は現在70でリーグトップだ。フィジカルが強すぎるあまりに、ファウル覚悟で止めてくる相手も少なくない。3バック移行後は3得点と失速。守備のタスクも増え「非常にきついです」と、精神的にも身体的にも木村は悩んでいた。とある試合後には、なかなかファウルを取ってくれなかったレフェリーへ本音を吐露し、フラストレーションがたまっている様子が見受けられた。 壁にぶつかる中、森下コーチと“エクストラ”と呼ばれる約20分間の居残り練習を続けた。同コーチとは対面で1時間ほど相談することもよくあったという。8月下旬、木村は「結構自分1人で考え込んじゃうこともあるんで。発散じゃないですけど、言って意見をもらってっていうのはすごいやってもらっています。そこは自分の中ですごいありがたいな」と話していた。 森下コーチによると、城福監督の要望で、木村に手を差し伸べる回数を増やしたそうだ。悩む木村に強調したのは、メンタル・感情のコントロールの重要性。「例えばシュートを外しても、それで引きずられるんじゃなくて、ストライカーはそこで感情を切って次のプレーに入っていかないといけない。そこが勝負だよっていう。戦術的なところよりも僕はどうやってグラウンドに立つかっていうところを伝えています」と明かす。 そんな中、木村の今季東京Vに加入してからの成長ぶりには目を細めていた。「点を取るだけでなくて、今のサッカーは全てが求められる。そういう意味ではすごく成長してると思うし、今の状況で2桁とれるようになってきたら本物」。9得点から足踏みが続いた状況については「ストライカーは数字に出るから、周りの声とかも気になると思う。だけど今の自分の状況をどう捉えるかで全然違ってくるよって。これを、やれることが増えている成長として見るか、ただ点が取れなくなっていると思うか、そういう捉え方をすごく話しますね」とさらなる進化を期待する。 木村自身目標とする、日本代表入りのポテンシャルについて聞くと「もちろんある」と即答。「あれだけサイズがあって突破できる選手はなかなかいない。それを生かす、判断する前の感情をコントロールして、いかに自分を積極的にするか。そこが勝負ですからね」と真っ直ぐに語っていた。 森下コーチの助けもあり、長く苦しんだ試練をようやくクリアした木村。「点を決めたらまた新しい道が見えると思う」と話していたように、重圧から解放された185センチの大型ストライカーは、ここから再び勢いにのるはずだ。