深刻な「人手不足」で国のかたちは激変する…意外と知らない「これからの日本経済の実態」
なぜ給料は上がり始めたのか、人手不足の最先端をゆく地方の実態、人件費高騰がインフレを引き起こす、高齢者も女性もみんな働く時代に…… 【写真】日本には人が全然足りない…データが示す衝撃の実態 話題書『ほんとうの日本経済 データが示す「これから起こること」』では、豊富なデータと取材から激変する日本経済の「大変化」と「未来」を読み解く――。 (*本記事は坂本貴志『ほんとうの日本経済 データが示す「これから起こること」』から抜粋・再編集したものです)
構造的な人手不足が、企業の変革と日本経済の高度化を要請する
人口動態の変化は経済の需給環境を変化させる。そして、需給環境の変化は、企業や労働者、消費者の行動様式に変容を促す。 『ほんとうの日本経済』第3部では、人口減少局面において内生的に生じるであろう各経済主体の行動変化を記述してきた。そして、経済の環境変化に大きく関係している経済主体はもう一つ存在している。それは政府である。 これまでの人口調整局面において、政府は経済に対してさまざまな介入を行ってきた。近年の政府の経済政策の大きな方向性を振り返れば、その中心にあったのは、バブル崩壊以降に幾度となく繰り返されてきた政府による大規模な財政出動やアベノミクス以降の日本銀行による異次元金融緩和があげられる。 これまでの財政・金融政策の背景にあったのは、日本経済が慢性的なデフレーションに悩まされるなか、需要の喚起が必要であるとの共通認識であった。実際に、ここまでの各種データから見てきたとおり、人口調整局面において供給能力に比して需要が不足していたということは、確かに事実であったと考えることができる。 政府や中央銀行による積極的な経済への介入を肯定する立場の専門家には、拡張的な財政・金融政策によって需給環境を意図的にひっ迫させることでいわゆる高圧経済と呼ばれるような状況を作り出し、その圧力によって日本の経済成長を実現させようという考え方もあった。そして、実際に近年の日本経済が直面している需給環境の大きな変化にこれまでの経済政策が貢献してきた部分もあったと考えることもできる。 しかし、それと同時にこれまで行われてきた日本銀行による大規模金融緩和は中央銀行のバランスシートを大きく膨張させ、政府による積極的な財政出動は政府債務を著しく拡大させるなど、過去に行われた政策は後世に多くの禍根を残した。足元でも日本円の急速な減価が進行するなど、過去の政策が引き起こしたさまざまな副作用を軽視することはできない。 これまでの人口調整局面に行われてきた政府や中央銀行による積極的な経済への介入にはどのような効果があったのだろうか。それは総じてポジティブな効果があったのかもしれないし、あるいはそうではなかったかもしれない。 この点、政府や中央銀行による積極的な経済への介入にどのような効果があったのかを検証することは重要である。これまでの人口調整局面において行われてきたこれらの政策の成否については、将来の然るべき時期にその審判は下されることになるだろう。 一方、過去に行われてきた政策に対する評価は別として、『ほんとうの日本経済』であくまで指摘しておきたいことは、このような経済の局面はもう既に終焉に向かいつつあるということである。そして、さらに指摘しておきたいのは、これからの経済の需給環境を決定する主役は財政・金融政策ではなく、人口動態の変化に伴う構造的な人手不足に移りつつあるということなのである。 今後の日本経済においては、政府、中央銀行による積極的な介入なくしても、人口動態の変化に伴って自然と市場の需給はひっ迫した状態が常態化していくだろう。 そうなれば、これからの日本の経済を占ううえで重要になるのは、経済全体の供給能力をいかにして高めていくかという、経済学が本来想定している問題に回帰していくことになる。 そして、これからの人手不足が常態化する局面においては、市場メカニズムが健全に発露するなかでそれが企業の変革を促す圧力となり、日本経済のさらなる高度化を促す原動力となるのである。