まずは「決算説明会資料」に目を通す…企業を調べるときに投資のプロがやっている「IR資料読み」のコツ
企業について調べるとき、投資のプロはどうやっているのか。公認会計士の川口宏之氏は「IR資料でもっとも読みやすいのは決算説明会資料だ。これを読めば会社の全体像がイメージできるようになる」という――。 【この記事の画像を見る】 ※本稿は、川口宏之『有価証券報告書で読み解く 決算書の「超」速読術』(かんき出版)の一部を再編集したものです。 ■有価証券報告書を全部読むのが面倒なら「決算説明会資料」 ほとんどの上場企業のホームページには、株主や投資家に対して財務状況を公表するIR資料が掲載されています。IRとは、「Investor Relations」の略称で、「投資家向け広報活動」などと言われています。会社の経営状態や財務状況、決算内容、将来的な見通しなども含めて、投資家がその会社に投資するにあたって必要とされる、さまざまな情報を公平に開示することです。 それらの資料を読めば、その企業の姿がわかります。 しかし、IR資料のメインとなる有価証券報告書は、100~200ページ近い分量があるため、情報量が多いうえ無味乾燥な文章や数字の羅列で理解しにくいという人もいるでしょう。 そんな人におすすめのIR資料が「決算説明会資料」です。 決算書を読む際に補助的に使えるため、本稿ではそれらについて解説しましょう。
■フォーマットが自由ゆえに見やすく作られている 決算短信や、四半期報告書を含む有価証券報告書は、あらかじめフォーマットが決められています。したがって、会社独自の表記はできません。 その意味では非常に堅苦しい開示資料とも言えるのですが、最大のメリットは他社比較が容易にできることです。 会社ごとに表現方法がバラバラだったら、必要な項目を探すのもひと苦労です。したがって、表記方法が統一されていることは、決算書を素早く読み込むためにも、とても便利なのです。 これに対して、開示資料の一種ではありますが、有価証券報告書などに比べてはるかに自由な表現が可能なものもあります。「決算説明会資料」がそれです。 ちなみに、決算短信は証券取引所によって、有価証券報告書は金融商品取引法によって、作成・開示が義務付けられていますが、決算説明会資料はなんの義務もありません。会社によっては、いっさい作成していないところもあります。 作成・開示すらなんの縛りもないのですから、表現方法が自由なのも当たり前と言えば当たり前です。実際に複数社の資料を見比べると、その違いがよくわかります。 恐らく、決算短信や有価証券報告書に比べて、非常にわかりやすいと思います。見どころとなるべき数字を大きく表記したり、過去からの業績推移をグラフや一覧表で表したりと、有価証券報告書に記載されている無味乾燥な文章とは違い、極めて平易な書き方がされています。 ■決算説明会資料は会社のすべてを語るものではない ただし、2つほど注意点があります。 まず、決算説明会資料だけでその会社の本当の姿を知るのは難しいということです。なぜなら、ここに記載されている内容の多くが損益計算書に基づいた情報だからです。貸借対照表に代表される財務情報は、ほとんど掲載されていません。 次に、会社側が好きなように作成できる資料なので、自分たちにとって都合の悪い情報を、意図的に隠している恐れがあることです。 逆に、掲載されている情報は、会社にとって都合のいい情報ばかりの場合もあります。 さらにもうひとつ言うならば、決算説明会資料は誰のチェックも受けていないということです。 もちろん、社内チェックはありますが、有価証券報告書のように、監査法人のチェックは受けていません。決算短信も表向きは監査法人のチェックを受けていないことになってはいますが、前述したように決算短信と有価証券報告書の数字に違いがあるのは望ましくないので、実際には、ほとんどの場合において、監査法人が目を通しています。つまり決算説明会資料は、決算短信や有価証券報告書に比べて信頼性に劣るとも言えるのです。