新幹線事故で足止めされた利用客… JR東海が“損害賠償責任を負う場合”とは?【弁護士解説】
最高裁の「違憲」判断のポイントは?
郵便法違憲判決(最高裁平成14年(2002年)9月11日判決)を読むと、以下のように記載されている。 「郵便官署は、限られた人員と費用の制約の中で、日々大量に取り扱う郵便物を、送達距離の長短、交通手段の地域差にかかわらず、円滑迅速に、しかも、なるべく安い料金で、あまねく、公平に処理することが要請されているのである。仮に、その処理の過程で郵便物に生じ得る事故について、すべて民法や国家賠償法の定める原則に従って損害賠償をしなければならないとすれば、それによる金銭負担が多額となる可能性があるだけでなく、千差万別の事故態様、損害について、損害が生じたと主張する者らに個々に対応し、債務不履行又は不法行為に該当する事実や損害額を確定するために、多くの労力と費用を要することにもなるから、その結果、料金の値上げにつながり、上記目的の達成が害されるおそれがある」 荒川弁護士:「これは、前述した鉄道の特性、つまり、旅客が鉄道という交通手段の利便性と引き換えに、鉄道の運行につきまとうリスクを負うべきというロジックと共通するものです。 しかし、最高裁はそのうえで、郵便局員の故意または重大な過失があったような例外的な場合にまで、国の損害賠償責任を免除または制限する合理性は認められないとして、上述の郵便法の条項を違憲としたのです」 判決文には以下の通り記載されている。 「郵便業務従事者の故意又は重大な過失による不法行為に基づき損害が生ずるようなことは、通常の職務規範に従って業務執行がされている限り、ごく例外的な場合にとどまるはずであって、このような事態は、書留の制度に対する信頼を著しく損なうものといわなければならない。そうすると、このような例外的な場合にまで国の損害賠償責任を免除し、又は制限しなければ法1条に定める目的を達成することができないとは到底考えられず,郵便業務従事者の故意又は重大な過失による不法行為についてまで免責又は責任制限を認める規定に合理性があるとは認め難い」 荒川弁護士:「この理屈は鉄道についてもいえます。運送約款の免責条項は、鉄道会社側に故意や重過失があった場合を想定してはいないと考えられます。 もし、そのような容易に想定しがたい例外的なケースが発生し、それが裁判で争われた場合には、運送約款の免責条項が部分的に無効と判断される可能性が考えられます」 今回の事件において、現時点ではJR東海に故意または重過失があったとは確認されておらず、結論として損害賠償請求は認められないと考えられる。しかし、最高裁の判例のロジックに従えば、免責条項は絶対ではない。この件を通じ、世の中のルールは必ずしもすべてのケースをカバーしきれているとは限らないということを知っておく必要があるだろう。
弁護士JP編集部