新幹線事故で足止めされた利用客… JR東海が“損害賠償責任を負う場合”とは?【弁護士解説】
それでもJR東海が損害賠償責任を負う「可能性」は?
たしかに、列車遅延が起きた場合に、鉄道会社に過失があるからといってそのつど損害賠償責任を負わせていたら、鉄道会社の経営はもたないだろう。しかし、鉄道会社に故意があった場合や、故意と同視できるほどの重過失があった場合でも免責するというのは違和感がある。いくらなんでも不当ではないだろうか。 荒川弁護士:「実は、運送約款の条項が、故意・重過失の場合にまで免責を認めている点については、民法90条の公序良俗違反で無効ではないかという問題があります。 実際には、鉄道会社に故意・重過失があるケースは容易には想定できないきわめて例外的な場合だと考えられます。今回の事件でも、JR東海に重過失までは認められないでしょう。しかし、そのようなケースが絶対にあり得ないとは断言できません。 その場合には、運送約款の条項の有効性が争われることになるでしょう」
「免責条項」を無効とした最高裁判例
荒川弁護士によれば、過去にこうした「免責条項」が無効とされたケースがあるという。 荒川弁護士:「2002年に最高裁が下した『郵便法違憲判決』(2002年(平成14年)9月11日判決)です。 この事件は郵便局が民営化される前で、郵便局員が公務員だった時代のものです。 郵便法には、かつて、JR東海の運送約款と似たような条項がありました。この条項には2つの問題がありました。 第一に、損害賠償請求できるケースを限定していました。すなわち、書留郵便物や小包郵便物を『亡失、毀損(きそん)』した場合や、代金引換の郵便物で代金を取り立てなかった場合のみに限っていました。その他のケースには、故意・過失を問わずいっさい損害賠償請求を認めていませんでした。 しかも、損害賠償請求できるケースについても、賠償金の額はわずかな金額しか認めていませんでした。 第二に、損害賠償請求できる人を、郵便物の差出人またはその承諾を得た受取人のみに限っていました。 最高裁は、これらの条項のうち、故意または重過失によって損害が生じた場合にも国の損害賠償責任を否定した部分が、国民の国に対する損害賠償請求権を定めた憲法17条に違反していると判示しました」