怒髪天、新体制で臨む全国ツアー中盤戦がスタート! またここから始まる――そんな思いに満ちた夜
怒髪天が開催中の全国ツアー〈ザ・リローデッド TOUR 2024〉。6月20日に渋谷CLUB QUATTROで開催されたライヴの模様をレポートする。
きっかけひとつで再び一気に転がり出すのがバンドという生き物
東京、渋谷。この街で怒髪天が行った最近のライヴは、40周年記念の幕開けとなった2月のO-EAST2デイズとなる。それは不動だと思っていたメンバー4人最後のステージでもあったわけで、私も含め、3人になった怒髪天を初めて観る都内在住のファンはかなり多いはずである。平日でもクアトロは満員御礼。ただし、来たはいいけれど、一体どんな顔をして楽しめばいいのかわからない。そんな戸惑いのムードも若干漂っていた開演前である。 戸惑うどころか、一番わかりやすくダメージを受けていたのは増子直純だ。O-EAST公演では初日に体調不良を訴え、予定していた後半の数曲は中止に。同じことは〈ザ・リローデッドTOUR〉の初日でも起こっていたそうで、3月に数本行われたツアーは、つまりこれからの怒髪天がどのように踏ん張って立つか、それだけに主眼が置かれていたと言える。あれから3ヵ月。もう何度目かわからない褌の締め直し、仕切り直し。中盤戦となる〈ザ・リローデッドTOUR〉が再び渋谷から始まった。 「よく来たぁ!」と大声で叫び、最初から感極まった表情の増子直純。素敵なはにかみと豪快な破顔を繰り返す上原子友康。対照的におどけ顔か真顔のどちらかでいるのが坂詰克彦だ。そして、ステージに立つはアナーキーの寺岡信芳。お馴染みの国鉄服ではない、花柄シャツにジーンズの装いも新鮮な彼は、的確なプレイでサポートに徹しつつ、メンバー3人にこう言っているように見えた。「心配すんな」。 サポートが寺岡だと聞いてすぐにはピンと来なかった。もっと界隈に近い、気心の知れた旧友のほうがいいのではと思ったくらいだ。ただ、それぞれルーツの違うメンバーが、10代で夢中になった数少ない共通項がアナーキーである。憧れのベーシストがギリギリの窮地に立つ自分たちの力になってくれる。これはどれだけのやる気と奮闘を呼び起こすのだろうか。ライヴ中に際立っていたのはアイコンタクトの多さ。寺岡と目を合わせるたびに「押忍!」の顔をする坂詰や、「先輩、行きますよね?」みたいに頷く上原子の、あからさまな後輩モードに驚いてしまった。言い換えるなら、いい緊張がバンド内にフレッシュな空気を蘇らせているのだ。 そしてまた寺岡にとっては、アクの強いヴォーカリストの扱いも慣れたもの。メンバーが欠ける痛みにしても、生きてりゃ別にいいだろう、といった感覚のはずである。中盤の「愛の出番だ!」は、彼のベースラインを中心に回るファンクナンバーだが、坂詰、上原子、増子がそれぞれ寺岡の存在を確認し、安心して再び客席に向き合っていくシーンが数えきれないくらいあった。すっかり人生の大先輩のごとく語られる怒髪天だが、当然、上には上がいるのである。 今後も続くツアーなので曲順の詳細は書かない。ただ、「酒燃料爆進曲」も「全人類肯定曲」も「ジャカジャーン!ブンブン!ドンドコ!イェー!」もなかったセットリストは、いわゆるお祭り騒ぎとは程遠い。むしろ久しぶりに聴く曲、振り返ればこんなにいい曲だったかと感じる隠れ名曲が多数なのであった。 特に沁みたのは後半に披露された、いつまでもいると思ってた〈オマエ〉のことを唄う1曲。さらには声も顔も思い出せなくなった苦い追憶を綴るバラードなど。ただ、それらが生々しく流れる血を感じさせることなく、ただ音楽として響くところがよかった。過去を客観視できているのだ。「そんなつもりで作った歌じゃないのに」と語る増子のMC、そこからすぐ時事ネタへ、さらに爆笑ネタにすり替わっていく話術の冴えっぷりが、吹っ切れた今を物語っていた。 さらによかったのは最新作『more-AA-janaica』収録の「たからもの」だ。〈偶然だけど/出会い巡り合い お気に入りが出来た〉と唄う内容は、寺岡のサポートに支えられ、今なお怒髪天を求めてくれる観客がちゃんといる、まさに今夜の状況を言い当てた1曲になっている。どこまでも軽やかなメロディ、男泣きとも不屈のド根性とも違う、〈なんかグッとくる〉としか言いようがない心象も嘘がなくていい。再びライヴハウスでグッときているバンドとファン、お互いの笑顔はとてもピュアだった。 ラスト手前で上原子友康は初めて渋谷クアトロに出た日のことを振り返る。イースタンユース企画の〈極東最前線〉。2000年夏のイベントだ。東京でこんなに満杯のイベントは初めてで、あの出演が転機になり、3年間の活動休止から復活したばかりのバンドは一気に加速した。思い出をたっぷり語り、「今日はちょっとそんな気分になった。またクアトロから始まるんだな」と笑う姿に、強く頷くばかりだった。 かつての活動休止とこのたびのメンバー解雇。英断といえばどちらも同じ英断だ。そしてきっかけひとつで再び一気に転がり出すのがバンドという生き物。セットリストに組み込まれた新曲「ザ・リローデッド」の意味を改めて噛み締める。考えてみればこの40周年記念テーマソングが2月のO-EASTで披露されることはなかった。歌詞にある〈決戦の地〉はまったく予想外の景色になっているが、それもまた怒髪天らしさのうち。発売から半年後にようやく聴けたテーマソングは、どこまでも清々しく響き渡っていた。
石井恵梨子