メルセデスのラッセル、苦渋なめた昨年から心機一転「僕の時代は必ず来る」ハミルトン離脱で2025年は事実上のチームリーダーに
メルセデスのジョージ・ラッセルは2023年シーズンを振り返り、F1キャリアの中で「精神的に最もタフ」だったと語る。ただ、彼は自身が昨年犯したミスをポジティブなものと捉えており、来る2024年シーズンの改善に向けた糧になると考えている。 【配信アーカイブ】motorsport.cast特別編:F1ジャーナリスト尾張正博が語る”F1現地取材” このような物言いは典型的な虚栄に聞こえるかもしれない。ただ、厳しい1年を過ごしたアスリートにとってこういったアプローチが心理的な後押しになることも、スポーツ界では以前から当然のことだった。 2023年シーズンの最終戦アブダビGPでmotorsport.comを含む一部メディアのインタビューに応じたラッセルは「おそらく心理的にこれまでで最もタフなシーズンだった」と振り返り、改善に向けて「逃したチャンスからやり返す」と語った。 ラッセルの2023年シーズンを振り返ると、カナダGPとシンガポールGPでクラッシュを喫し、モナコGPではレース終盤にコースオフ、ラスベガスGPではレッドブルのマックス・フェルスタッペンと接触と、精彩を欠くことも多かった。その一方ラッセルは、最終戦アブダビGPで体調不良と戦いながら、レッドブルのセルジオ・ペレスのペナルティもあり、3位表彰台を獲得する活躍も見せた。 メルセデスが2024年シーズンに向けた準備を進める中、「こういう時こそ自分をプッシュするんだ」とラッセルは語った。 「アクセルを戻して限界から1%引いたところで快適にドライビングをすれば、今ここに座って『ひとつもミスをしない』と言えるかもしれない」 「(2017年のGP3と翌年のFIA F2で)チャンピオンを獲得した時は、おそらく今ほど自分を追い込んでいなかった」 「僕は意図的に自分自身をさらに限界の先まで追い込んでいるし、予選でチームメイトと同等になるとか、そういうことでは満足できない。(2022年と同様に)僕らはシーズンを通して互角だった」 「僕は前にいたいんだ。そのために自分を追い込んでいる。ひょっとすると、それが2~3回のミスを招いた小さな原因なのかもね」 ラッセルは「このようなシーズンを振り返ることで成長できる」と感じているものの、最終的には「(2023年が)チャンピオン争いができるシーズンではなかったことに感謝している」と言う。 メルセデスは現行レギュレーションが導入された2022年からマシン開発の面で後手に回り、2023年も前年のW13からW14に引き継がれたマシンコンセプトと、その気難しいマシン特性に頭を悩ませる1年となった。 ラッセルとしてもマシンの面で足を引っ張られるシーズンとなったものの、ドライバーの面で改善できる部分は大きいとして「新シーズンは全く新しいモノになると確信している」とも語った。 「こういう1年で、安定したシーズンやタイトルを獲得した他のシーズン全てが無くなる訳じゃない」 「再び良いリズムを取り戻すのにそれほど時間はかからないだろう」 ラッセルはそう語る一方で、2023年シーズンは順調なスタートを切っていた。序盤のオーストラリアGPやマイアミGPでは素晴らしい走りを見せ、スペインGPまではチームメイトのルイス・ハミルトンに対して4勝2敗という成績を残していた。 スペインGPでメルセデスは昨年唯一のダブル表彰台を記録。ハミルトンがその後も順調に表彰台獲得を続ける一方で、ラッセルはスペインGP以降、最終戦まで表彰台が無かった。 メルセデスにとっては、ラッセルが2023年の挫折から立ち直ることが今後に向けてより重要になる。2013年の加入以来メルセデスと共にF1で一時代を築いたハミルトンが2024年限りでチームを離れ、フェラーリへ移籍するのだ。 そのため、メルセデスがアストンマーティンからフェルナンド・アロンソを引き抜くなど大胆な起用をしない限り、ラッセルが事実上ナンバーワンドライバーとなるだろう。 ハミルトンと入れ替わりでカルロス・サインツJr.がフェラーリから移籍してきたり、ウイリアムズで活躍するアレクサンダー・アルボンが加入したり、はたまた今年FIA F2に参戦する育成ドライバーのアンドレア・キミ・アントネッリがスピード昇格を果たしたとしても、ラッセルはメルセデスチームの動き方やマシンの傾向を熟知しており、実質的にチームを率いることになる。 メルセデスのトト・ウルフ代表も、2025年以降はラッセルがチームリーダーとなる可能性が高いと示唆している。 「ジョージはチームの次期リードドライバーになる可能性を秘めている。ルイスが去った後に新たなチームリーダーを望むことはできない。それは間違いないよ」 「これだけ強固な基盤があり、マシンには速くて才能があり、知的な男が乗っているのだ。後はセカンドドライバー、セカンドシートにふさわしい人選をするだけだ」 2022年シーズンはチームに唯一の勝利を届けた一方で、2023年はドライバーズランキングでハミルトンに5ポジション差もつけられてしまった原因は? そしてどのようにこの挫折から立ち直ろうと考えているか? とラッセルに尋ねると彼は次のように答えた。 「僕らはみんな、勝利に向け戦うためここにいる」 「それはメルセデスで働く2000人だけでなく、フェラーリやマクラーレン、このグリッドで働く全ての人たちが勝利のために戦っている」 「そしてF1の悲しい現実だけど、その夢を叶えられるのは1チームだけだ。多くの場合、上手くいく時は上手くいくもので、流れを変えて追い上げるのは本当に難しい」 「もちろん、(2023年にも)より多くのことを成し遂げたかった。未勝利だけど僕はシーズン中に7~8回は表彰台に登れていたはずだった」 「(インタビュー時点では)でも1回しか表彰台に登れていない。自分自身のミスがいくつかあったことで僕は失望している」 「でも後手に回っている時は、全てが自分に不利に働くことが多いと思う。でもマシンが飛ぶように速い時は、全てが自分を味方する。あるひとつのことに取り組む必要があるのは明らかだ」 「でも僕はポジティブに考えている。フェルナンドを見ていると少なくとも僕に15年は残されていると感じる。マックスの例を見てみると、タイトル争いをするまでに7年の下積みがあったと思う」 「悔しいけど僕らの時が訪れるのを待つ必要がある。ただ、シャルル(ルクレール/フェラーリ)やランド(ノリス/マクラーレン)のような素晴らしいドライバーが同じようなポジションにいる」 「3~4年前はマックスも同じ状況だった、だからあまり苦には思っていないんだ。もちろん、僕の運勢が変わることを願っているけど、僕の時代は必ず来るよ」
Alex Kalinauckas