学生の力で盛り上げ ── 建築系卒業設計展「NAGOYA Archi Fes2015」
中部8県を対象地域とした、建築系卒業設計展「NAGOYA Archi Fes2015」がこのほど、愛知県名古屋市千種区の吹上ホールで開催された。昨年、東海地区で行われてきた設計展「dipcolle」を引き継ぎ発展させる形で誕生した「NAGOYA Archi Fes」。中部地区の学部1~3年生で実行委員会を構成し、本卒業設計展も学生の手で企画・運営された。両日とも多くの来場者があり、出展者と審査員、出展者と来場者といった、様々なコミュニケーションが生まれた。
中部の17大学・専門学校から76作品がエントリー
「中部建築界の活性化」と「評価軸の多様化」をテーマとする同フェスでは、2日間にわたり様々な企画が展開。雪の朝となった初日は、3月としては戦後最大に並ぶ積雪ということで、出展者や来場者への影響が心配されたが、設計展が予定通りにスタート。個別講評審査として、審査員と模型の前に立つ出展者とのポスターセッションから始まった。 審査員は目についた作品には『いいねシール』を貼り付ける。その状況は随時、会場の大型スクリーンに映し出され、審査員による個人賞が発表された後には、7人の審査員が7つの分野(文化施設、公共施設、都市インフラ、学習施設、住居、商業施設、総合)に分かれる。そして専門的な観点から作品ついて議論する場も設けられた。 昨年は出展者だったという女性は、今年の作品展の様子について、「去年は著名な建築家の作品に似ていると感じる作品も見られたが、今年は自分の思いをしっかりと設計に反映しているものが多かった。私にとって卒業設計展は自分の中にある建築の考えを見つめ直すよいきっかけとなった」と語った。
自分の考え思うように発表できぬ学生も
2日目は審査員の巡回審査が行われ、ファイナリスト8名が選出。会場をホールへ移してプレゼンテーション、質疑応答、そしてディスカッションなどが行われた。 中には大勢の来場者、名立たる審査員を前に、自分の考えが思うように発表できない学生も。審査委員からは「覚悟」「情熱」「こだわり」といったキーワードが上がり、作品について着想は評価されるも、建築をもっと突き詰めてほしいという意見が多く聞こえてきた。 ディスカッション後に審査員による投票が行われたが、複数の作品の得点が並ぶ結果となり決選投票を実施した結果、名古屋工業大学工学部の学生による、愛知県奥三河地方の「花祭り」の風景を伝承するための提案が最優秀賞に輝いた。 審査委員長の栗生明氏からは「建築は自分の命をかけて初めて社会が認めてくれる。どの案も可能性があるので、実現するための情熱を磨いて欲しい」というエールが。また総合司会の松田達氏からは「建築はコミュニケーションも重要。途中で審査員から出された助け舟をうまく拾って自分のものにすれば…というシーンも見られた。一方で、他の設計展と比べてNAGOYA Archi Fes は運営スタッフの動きがとても良かった」と、実行委員に対するねぎらいの言葉も贈られた。 2日間にわたり会場には多くの学生が来場し、分野別議論会や公開審査への参加。出展者へ質問をしたり、一生懸命メモをとったり写真におさめたりする姿が見られるなど、この設計展は収穫が多い人も多かったのでは。2015年度のテーマは「近未来に問う。」だが、次世代の中部の建築界の盛り上がりにつながる種は、しっかりとまかれているという印象だ。 (編集プロダクション エディマート)