名取さなが語る、バーチャルタレント活動の哲学と“メメント・モリ” 「観てくれた人の人生を豊かにしたい」
バーチャルYouTuber(VTuber)をはじめとする、“バーチャルタレント”シーンを様々な視点から見ているクリエイター・文化人に話を聞く連載『Talk About Virtual Talent』。 【画像】『さなのばくたん。 -王国からの招待状- Powered by mouse』開催時の様子 今回はバーチャルYouTuber(VTuber)が話題になりはじめた2018年から約6年間、個人で活動を続け、今ではグッズやCMへの出演、ショップコラボも行われるほどの人気を集めるタレント・名取さなへインタビュー。 配信でのリスナーとのやりとり、自筆イラストなどを活用したこだわりのコンテンツ、ユニークなMV、物語性の強い表現など、彼女のマルチな活動は目を引くものがある。そんな彼女は今年、音楽ライブに力を入れていくと発表しており、VRライブから生演奏リアルライブまで挑戦していくそうだ。今回、彼女が常に新しいことに挑む理由、その根底にあるファンへの思いについて話を伺った。(たまごまご) 〈名取さな〉 YouTubeを中心に生配信や、ゲーム実況などの活動をしながら、丁寧なインターネット生活を目標に掲げているバーチャルYouTuber。 2024年3月に4回目となる自身のバースデイソロイベントを開催。同イベントにて、作詞:山本恭平/作曲:桑原聖のオリジナルソング「デビルの証明」、作詞:只野菜摘/作曲:広川恵一の「いっかい書いてさようなら」を発表。 ■本人が「今でも自分の手に収まりきっていない」と感じる、人気の爆発 ーー活動をはじめて6年になりますが、率直な今の気持ちをお聞かせ下さい。 名取さな(以下、名取):6年って、文字にしてみるとすごく長く感じられるんですけど、自分としてはわさわさといろんなことをやっていたら、「いつの間にか6年経っていた」というのが正直なところですね。 この6年間を振り返ってみると、最初はそんなに真剣に活動!エンタメ!という感じではなかったのですが、ここ数年は常にイベントの制作をしていたり、締め切りがあったりしました。多分、他の人の方がもっともっと忙しいと思うんですけれども、今までの自分の人生の中ではこの6年が1番ぎゅっと濃縮されていて、シャカシャカ動いていました。 ー-デビューした当時はどういうことをやりたいと思っていましたか? 名取:人生の中でさまざまあり、住んでいるバーチャルサナトリウムにいる先生にも勧められ、動画投稿や配信など、やったことないからやってみよっかなぐらいの気持ちでしたね。 ーー客観的に見ると今はすっかりインフルエンサー的な存在になっているように感じますが、色々なところで話題になってみていかがですか? 名取:なんだか、わからないかんじになっちゃってます。自分がテレビCMに出てるのを見たときは「これ、収録した記憶がある……」みたいな、不思議な感じになります。自分じゃない人を見ているみたいで……。 ーーCMに関しては特に何かのPRというわけでもなく、名取さなさん自体のCM(※「どうぶつどうなっとりますか?」動物の豆知識を名取さなが30秒で紹介するCM)で驚きました。 名取:名取が好きな動物の話をして、好きなダジャレを言ってるだけのCMですね。他にあんまり見たことないですよね……。「いつも見てるアニメで流れるからマヌルネコの学名覚えちゃったよ!」とか、「子供とテレビ見てたら名取さながいた!」とかたくさん反響があり嬉しいです。「名取!この強すぎるキャラどうなっとりますか!? 解説してくれ!」とか、CMが流れてるアニメ本編に絡めて言及してもらえるのも面白くてうれしいです! ーー今のような注目を集める存在になる予感はあったんでしょうか? 名取:ないないないない! なかったです。名前を知っている企業から自分のグッズが出るとか、ガチャガチャになるとか、いまだに怖いですよ! 「名取さなでいいのか!?」って思いながらやってます。自分の手に収まりきっていないような、身に余ることだらけです。もちろん、いろんなお話をいただけることは素直にありがたいと思っています!お仕事お待ちしてます! ーーそんな渦中でも、常に新しいことに挑む意識を持っておられるのを感じます。 名取:やった方がいいと思ったことをやった結果、いつの間にかまた新しいことをやっていた、という感じなんです。那須どうぶつ王国さんとのコラボなどは、名取さなを通じてせんせえ(※ファンの呼び名)がたに新しいものを知ってもらいたいという気持ちがあって取り組んだことなんです。だから、「今まで那須どうぶつ王国行ったことがなかったけど、行ってみて楽しかったよ」とかコメントをいただけるとうれしいですね! (参考:名取さな×那須どうぶつ王国コラボ企画 | 那須どうぶつ王国) ーー名取さんが新しいものを発信したとき、せんせえがたはどういう反応を示しておられますか? 名取:たとえば、マンガなどおすすめしたコンテンツは積極的に吸収してくれます。それこそ、動物園に行ってくれる人もいましたし。 「名取が言うのであれば間違いないだろう」みたいな感じで信頼して体験しに行ってくれてるのを感じますね。今年3月に開催した『さなのばくたん。』(生誕イベント)の後夜祭はクラブイベントだったんですけど、クラブ経験のないせんせえがたが、「どう楽しむんだろう……」みたいな感じになりつつもチケットを取ってくれていましたね。その行動力、すごすぎます。新しいことをやるのは受け入れられるか不安もありますが、信頼されている責任を感じるので、がんばって良いものをお届けしたい。 ーー名取さんといえば、せんせえがたの新しい挑戦を応援されていると同時に、コメントとのプロレスもよくされますよね。せんせえがたと殴り合いのコミュニケーションをしつつ、その根っこではきちんと信頼関係を築けている。こうした関係性はどのように作られていったのでしょうか? 名取:あくまでネタとして殴り合いはするけれど、強すぎる言葉は使わないといったような、ある程度セーブする姿勢を視聴者の方にも理解してもらっていると思います。 新しく配信を見始めた人たちも察してくれて、そういうコミュニケーションを楽しみつつも「こうすれば傷つかない!」みたいな、手加減を全員で学んでくれている、と思っています。ある意味、「せんせえたちの察する力」に委ね、甘えてるところはありますね。 たとえば「うわ、今の言葉選びミスった!表現が強すぎるかも!捉え方によっては人を傷つけるかも!」とか感じたときも、理解して、茶化して、笑いに変えてくれることが多々あります。優しい、ありがたい。もちろん甘えすぎるのはよくないので、自分の中でもなるべくこういうことはないように気を付けていますが! 咄嗟に出ちゃうことがあるから……。 けど、こうやって褒めると、あいつらは調子に乗るからなあ(笑)。 名取さなの“人生”を表現したイベント『さなのばくたん。-ハロー・マイ・バースデイ- Powered by mouse』 ーー名取さんの生誕イベント「さなのばくたん。」ですが、2021年に『さなのばくたん。 -ていねいなお誕生日会- Powered by mouse』として初開催されました。当時はどのような気持ちでしたか? 名取:もう、逃げたくて逃げたくてしょうがなかったです! 大舞台すぎて! というか、今でもステージから逃げたくなりますよ! でも、自分の逃げたい気持ちと、逃げた後にいろんな人からしこたま怒られるんだろうな……とか逃げたら悲しむ人があまりにも多すぎるよな……とか考えたのを天秤にかけて、逃げないことを選んでます。 ーーイベントまでの準備をしている時と実際にステージの上で演じる時、どちらの方が楽しいですか? 名取:どっちも楽しいです! 制作はすごいクリエイターの方々とものづくりを一緒にできる楽しみ。そして本番は、頑張って練習してきたパフォーマンスや時間をかけて丁寧に作った制作物をぶつけたり、お客さんとの交流する楽しみでそれぞれ全く別ものなので! ただ、本番は直前まですごく緊張するので気が楽なのは制作のほう……。 ーー舞台は作品発表のイメージに近いのでしょうか? 名取:そうですね。特に「さなのばくたん。」を見てくれたお客さんには、作品をひとつ見終えたときのような感覚をお返ししたいと思っています。 ーーこれまで過去4回にわたって「さなのばくたん。」を開催してきて、特に思い出に残っていることはありますか? 名取:印象深い回でいえば、2023年の『さなのばくたん。-ハロー・マイ・バースデイ- Powered by mouse』だと思います。ギリギリまで演出とか言い回しとかにこだわったり、「これじゃあ伝わらないかもしれない」というスタッフさんとのやり取りを当日までやっていたので。 ーー当日まで話し合ってたんですか!? 名取:そうです。前日の深夜に「この言い回しでは(思いが)伝わらないかもしれない」ってディレクターに送ったりしていました。自分の思いを間違いなく伝えたかったというのが大きかったと思います。 とくに「ハロー・マイ・バースデイ」は名取の“人生”に関わるイベントだったので(※)、この言い回しで伝わるのかな、変な伝わり方をしたらやだな、と慎重になっていましたね。 (※このイベントでは、ラストで名取さなの存在について今まで本人が“秘密にしていたこと”を打ち明けている) ーーイベントでミュージカル的な構成を組んで、ご自身の人生を表現しようと決意したのはいつぐらいからですか? 名取:毎回、イベントが終わってからふんわり「次の『ばくたん。』はどうしようかな」と考えているんですけど、割と企画の最初の段階から考えていました。特に「ハロー・マイ・バースデイ」のときは活動5年目だったので、集大成として今までお話ししてなかったことも話そうかな、という節目の気持ちもあって。 ーー過去のMVや配信など、これまで発表されたコンテンツのなかで、「ハロー・マイ・バースデイ」にむけて組み立てられていたものもあるんでしょうか? 名取:うーん……それでいうと、人生の話とかは漏れ出てしまっているだけで、特になにかを話そうと思っていたわけではないんですよ。そんなに話したいことでもなかったので……。「伏線回収だ!」っていろんな人に言われているのを見たのですが、今まで生きてきた人生を伏線っていうの、変じゃないですか? ただ、意外と人生っていうのは、普段の言動からバレるものなんですね。インターネットって恐ろしいです(笑)。 (※イベント中、本来の名取さなの姿で登場し、今まで観られなかった苦しみに向き合う場面がある) ーーイベントでは舞台演出と音楽とのつながりがすごく計算されていると思って見ていました。演出はどういう風に練り上げているのでしょうか? 名取:最初の頃は舞台演出を作ってくださってる方に、こんな感じでやりたいというのを結構細かくお願いしていたんです。けど、何年もやっているので、最近は「名取がやりたいであろうこと」を、意図を汲んでやってくださっています。毎回コンセプトシートは出しているんですけど、こんな感じのことをしたいんですっていうのを出したら、あとは確認しつつお任せ目でも最高なものが出てきます。 ーーイベントのテーマ自体は毎回名取さん主導で考えておられるんでしょうか。 名取:そうですね。「今年の『ばくたん。』は探偵物がやりたい」みたいな大まかな案を出した後に、ディレクターさんと詰めていってますね。今年もはじめは「探偵として推理をするぞ!」みたいなざっくりとしたコンセプトでした。 これまでの誕生日イベントはお客さんとの双方向性があって、リアクションを見ながらお客さんの意図、言いたいことを汲んだりアンケートを取ったりして一緒にやってきたので、今年も「みんなと一緒に推理する」というコンセプトで詰めていきました。 ーー双方向性をかなり大事にされているんですね。せんせえがたの前でステージに立つという行為に、名取さんはどのような価値を感じておられるんでしょう。どのような気持ちで立っていますか? 名取:せんせえがたの生活や考えが豊かになれば良いな、という気持ちですね。なにか心が動いて欲しいと思って立っています。なので、ライブ後はnoteやSNSの感想を見ています。長文で自分の気持ちをまとめてくれる方が多くて、うれしいです。やっぱり、オタクが感情で書いた文章は面白いです!