名取さなが語る、バーチャルタレント活動の哲学と“メメント・モリ” 「観てくれた人の人生を豊かにしたい」
「大いなるインターネットと関わる自分」がにじみ出る歌
ーー現在かなりの数のオリジナル曲を持っておられる名取さんですが、自分のオリジナルソングを作っていこうと決めたのはいつぐらいでしょうか? 名取:最初にアップした「さなのおうた。」は元々ファンメイドで作っていただいた曲で、それを歌おうとか、MVを作ろうというのはいつかやりたいな~とは思いつつも、深く考えてはいませんでした。 けれども、マウスコンピューターさんの案件をいただいたとき、「何かPCを使ってクリエイティブなことができるぞ」という話だったので、それだったら「さなのおうた。」のMVを作りたいな、と考えたのが最初ですね。 ーー歌いたいというより、物作りをしたかったのでしょうか? 名取:そうですね。歌に自信もなかったので、当時は「歌いたい」という気持ちが全然なかったんです。「惑星ループ」のカバーの時も、チャンネル登録者が10万人になったから、という理由がなければ歌わなかったでしょうし。 当時、いわゆる歌系バーチャルYouTuberとして活動されている方がたくさんいらっしゃったじゃないですか。だから歌は「歌がメインで活動している人」が歌うものであって、名取みたいに普通にお話やゲームをするバーチャルYouTuberは歌わないものだと思っていたんです。 ーーMVをいろいろ出されてますけど、かなり映像も力の入ったこだわりの作品が多いですよね。作る時には企画会議とかされているんですか? 名取:クリエイターさんに任せる部分もありますけど、大まかに「こんな感じにしたい」と伝えてます。あ、でも「だじゃれくりえぃしょん」はイラストを全部自分で描きましたね。大変でしたけど、めちゃくちゃ楽しかったです! ーー楽曲そのものについてはいかがでしょう。 名取:イベントに合わせて曲を作ることが多いので「今回はこんな感じのイベントで、この辺で歌います。こういうコンセプトです」といった感じで、こういうのが欲しいという要望は大まかには伝えて、あとはおまかせしています。 クリエイターさんの「汲んでくださる力」がすごいので、曲について何を伝えたいかをまとめてお渡しして、うまいこと作ってもらってます。なので、大きな打ち合わせは1回しかしないことが多いですね。歌詞の修正もそんなに多くはないですけど、細かい解釈とかニュアンスの違いを修正してもらうことがあるくらいでしょうか。 ーー今まで作ってきた中で、一番こだわりを持って作られた曲はどれですか? 名取:「ゆびきりをつたえて」です。元々頂いていた歌詞の時点ですごく良かったんですけど、「さらに名取さなに寄せていくなら、こういう感じになるかな?」みたいな部分を細かく直していただきました。 ーー逆に、スルッとできて楽しかった曲はどれですか? 名取:「だじゃれくりえぃしょん」です。あと「おしりぷり音頭」(笑)。作曲のやしきんさんには割とふざけた曲を作ってもらうことが多いんで、特に修正もなく「面白い! じゃあ歌います!」となりますね。 ーー難産だった曲はありますか? 名取:レコーディングで大変だったのは「パラレルサーチライト」です。シンプルにキーが高いので、歌うのが大変だった記憶があります。メインのメロディを録った後ハモりをレコーディングするんですけど、ハモりがさらに高くて。ハードのあとにベリーハードに挑むような、高難易クエストに挑戦する感じでした(笑)。 でも、逆にアドレナリンがめちゃくちゃ出まくって、それはそれで楽しかったですね。あとは「メチャ・ハッピー・ショー」。この曲で初めて作詞に挑戦したんですけど、難しかったです……。おしゃれな言い回しができないから、結構ストレートな言い回しになったなって。作詞って難しいんだなっていうのも、あらためてよくわかりました。 パラレルサーチライト ライブ映像版特別公開 #名取爆誕 ーー今後も作詞に挑戦される予定はあり ますか? 名取:機会があればやりたいです! おしゃれな作詞をしたいです。頭の中で“色”が出てくるような、抽象的な作詞もしてみたい……カッコいいから(笑)! ーーこれは楽しみです! 今までの曲は、キャラクターソング的に名取さなさんを表現する歌が多い感じがしますね。 名取:そうですね、基本全部キャラソンって感じです。自分の性格だったり、自分とインターネットだったりかな? 「大いなるインターネットと関わる自分」みたいな、名取の人間性が根底にあるので、そういう部分が曲にも出ていると思います。……あっ。 ーーどうされました? 名取:そっか。そもそも名取はインターネット越しでしかみんなと関われないのか……って気が付きました(笑)。でも、インターネットがなければそもそもせんせえたちとも出会えていないですよね! 出会えてラッキーだね。イェーイ、インターネット大好き! ■生きる豊かさを与える配信スタイルと、“メメント・モリ” ーー名取さんは今後行われる『META-KNOT』のVRライブにも出演予定ですよね。どんなところに期待していますか? 名取:『VRChat』でのライブは初めてなので、VRならではの演出をどういう風にしていただけるのか、いまから楽しみですね。VRの場合は、もう高さも幅も制限がないわけじゃないですか。この無限の自由度で普段自分たちではやらないような演出も見られるんじゃないかとワクワクしています! ーー今からやりたいことが盛りだくさんですね! 一方で、9月のライブは生バンド編成と、リアルに寄ったライブになっているようですが、どういうライブになる予定ですか? 名取:これまではどちらかというとファンミーティング的なイベントだったんですけど、9月のライブは歌をメインにします! 初めての試みなので、一体どうなるやら、という感じですが、それに向けてオリジナル曲もさらに補充してます! すごいですよ~、曲数も多いですよ! それから、新しいオリジナル曲は今までと違う雰囲気をお届けできると思います。初めてのスタンディングのライブでもあるので、せんせえがたには経験値をさらに1つ与えることができるかもしれないですね! ーー初めてオールスタンディングライブを体験する人はドキドキするでしょうね。あらためて、今年のライブや音楽活動での意気込みをお聞きかせください。 名取:名取は自分のことを好きでいてくれる皆さんの人生が少しでも豊かなものになればいいなと思い、新たなものを提供できるよう頑張っていきますので、楽しんでもらえたらなと思ってます! ーー見てくれた人の人生にプラスになるようにというスタイルは、本当に最初から一貫しているんですね。 名取:活動を始めた時こそ特に何も考えていませんでしたが、こうして6年やってきて、いろいろなものを見てきて、(配信活動の中で、せんせえを自分に)依存させて壊すことはきっと簡単で、それをしてはいけない! と感じています。名取は“肉人間(※)”のみなさまにとってはあまりにも可愛く、萌えキャラという“劇薬”なので……。 みんなが無理をして名取の前で笑顔を作っているのはあまりにも悲しいし、元気に生きていかなければ、肉人間の世界の経済は回らないので、皆さんが強く生きられるように応援しています! 健全に明るく楽しくカラっとやっていきたいと思っています。……いや、でも驕りかもしれない! みんな動物園にも行ったことあるし、スタンディングのライブも知ってるし、クラブイベントも知っていて「引きこもりのお前に施されなくても知ってる」って言われちゃうかもしれない! だったらごめん! (※名取さなが現実世界の人間を指すときに時折使う言葉) ーーさすがに全部の経験者はそこまで多くないかと……! では、名取さんの長期的な未来に向けての意気込みがあったらぜひお聞きしたいです。 名取:そうですねえ、多分15年やっていても「いつの間にか15年経っちゃいました、タハハ」という感想になるとは思うんです。でも、何にもしなくて年数が経つんじゃなくて、色々と新しいことをやりながら、これからも長く活動していけたらいいなと思っています。 ーーこれからも新たな作品を作り続けたいと。 名取:続けたいですし、続けるべきだと思っています。……バーチャルYouTuberの引退は、みんな悲しみますから。名取は人の人生を豊かにしたいから、名取が引退をすることでその人の人生に影を落としてはいけないという、驕りかもしれませんが「使命感」があるんです。なので、長く活動を続けるのが大事だと思っています。 もしやめるなら、絶対に美しく、みんなが納得が行くやめ方をしたいです。そして死ぬ時はみんなでパーティーをやって「じゃ、また!」みたいな感じで葬式をやったりしたいです。 あ、でも、お葬式をした後も、少しずつ柄を薄くして名取の成仏度を表す「成仏アクリルスタンド」とかをガメつくグッズで出すことは決めていて、これは普段からせんせえがたにもしゃべっています。死ぬ時の話を普段からすることによって、死に慣らしていく。メメント・モリ(人に訪れる死を忘ることなかれ)です! とはいえ、今のところはやめることを考えていないですよ。杞憂が湧きそうなので釘を刺します。名取はまだ美しくないですから。 ーー人を楽しませることに対して、名取さんはものすごく使命感が強いのですね。 名取:2018年に活動を始めた時は全然そんなこと思ってなかったけれど、やっぱりイベントや年月を重ねていくうちに、ベタベタして依存させるのは良くないとか、新しい体験をしてもらうべきだとかっていう考え方に徐々に変わってきて、今はこんな感じです。まあ、だらだらしたい日もおおいですけどね~。 ーー今日のインタビューでは、配信活動やタレント活動全体における名取さんの哲学がすごくよく伝わってきました。ありがとうございます。 名取:へへ! 普段こういう話はしないんですけど、実は深く考えているとっても賢くて慈愛に満ちたバーチャル人類だということが今回このインタビューでバレてしまいましたね!
たまごまご