世界では薬物注射による死刑執行が主流となりつつあるなか、なぜ日本は今も絞首刑を続けているのか
死刑の実態をまず明らかにする
日本では09年から裁判員制度が始まり、死刑が言い渡される事件の裁判員に誰もがなる可能性が出てきました。一般の国民が死刑判決に関与させられるわけですから、政府は死刑の実情をオープンにするべきですし、それをしないことは裁判員になる人々に対して失礼です。 私は死刑に対しても懲役刑に対しても、「こういう重い犯罪ならやむを得ない」といった、ある程度一般的な感覚が反映されるべきだとは思っていますが、これはきちんと情報が提供されることが前提だと考えます。 例えば、現在の日本では犯罪の厳罰化が進んでおり、無期懲役は事実上の終身刑となっていますが、裁判員にその情報がきちんと提供されなかったことで、「無期懲役だと、そのうち刑務所から出てきてしまって困るから死刑にしよう」と判断されては大変なことになります。 情報がないままに命に関わる重い判断をさせるということは、あってはならないことです。 私は死刑存置派ではありますが、日本が今後も死刑制度や絞首刑を採用し続けるのであれば、法的な裏付けとともに「この方法は『残虐な刑罰』に当たらない」ということを国際社会に対して発信し続ける必要があると考えています。 執行のやり方も含めて、細かい段取りも議論し、ルール化することが大切。法律で決められていないというのは、法治国家としては一番まずいことです。 また、死刑の議論は、ともすると存続か廃止かという話に収れんしがちですが、まずは実態を明らかにする必要があります。 私は研究者として、議論の材料を人々に提供する責任があると考えていますので、情報が出されないことを嘆くばかりではなく、これからも公文書などの資料を地道に調べていこうと思っています。 文/永田憲史
---------- 永田憲史(ながた けんじ) 1976年、三重県生まれ。関西大学法学部教授。専門は刑事学・刑事政策(特に死刑、罰金刑、オセアニアの刑事司法)、いじめ防止対策推進法。関西大学法学部専任講師、准教授を経て、2015年より現職。著書に『死刑選択基準の研究』『わかりやすい刑罰のはなし』『逐条解説「いじめの重大事態の調査に関するガイドライン」』(すべて関西大学出版部)などがある。 ----------
永田憲史