「IOWN構想」で世界に挑むNTTが始めた〝仲間づくり〟五味和洋・NTTリサーチ社長インタビュー
NTT(グループ)の海外進出は失敗の連続と言っても過言ではない。しかし、ここサンフランシスコ・シリコンバレーでは、失敗をあげつらうほうが非常識である。失敗に懲りないGuys(連中)がいる街だからだ。 【写真】五味和洋 NTTリサーチ社長 日本ではガリバーのNTTも、シリコンバレーでは、One of themに過ぎない。しかし今、世界の「ゲームチェンジャー」になるという野心を持って〝仲間づくり〟を始めている。 その武器となるのが「IOWN (Innovative Optical and Wireless Network:アイオン)構想」だ。現在、戦略物資となっている半導体をリプレースする可能性を持っている。日本でも〝国家プロジェクト〟の半導体製造会社「ラピダス」が、線幅2ナノメートル(ナノは10億分1)の半導体製造に挑もうとしているが、微細化には限界がある。積層化も進められているが、半導体による電気通信に対して、IOWNは光通信であり、圧倒的に電力消費量が少ない。生成AIは、大規模で強力なデータセンターを必要とするため、大量の電力を必要とする。その消費電力を大幅に削減することができるのがIOWNなのだ。 IOWNの仲間づくりの先頭に立っているのが、NTTリサーチの五味和洋社長だ。スティーブ・ジョブズがiPhone発表のプレゼンを行ったことでも知られるThe Moscone Center(モスコーニ・センター)の真向かいに建つ「NTT Experience Center」で話を聞いた。
ゲームチェンジになる光化技術
NTTが2019年に打ち出した次世代情報ネットワーク基盤の「IOWN構想」の実用化を目指している中で、今年4月にオールフォトニクス・ネットワーク(APN)を使って大量のデータを遅れることなく、少ない消費電力で送信できる実証実験を、米バージニアと英ロンドンの各データセンター間で行い、パフォーマンスを確認した。 「このシステムを光化するためには、コンピューターやサーバー、チップなどの配線を順次、光に置き換えていかなければならず、APNはその一歩です。最も電力を消費する計算処理をしている部分を光化するために、半導体を製造しているメーカーにも加わってもらわないと、このシステムを広げられないので、仲間づくりを進めています。20年からNTT、半導体大手のインテル、ソニーが発起人でスタートし、今話題のエヌビディアなど約140社が参加しています。半導体の微細加工も限界になりつつある中で、光化は誰もが考えている流れで、NTTは光化技術の火付け役になって、世界の注目度は上がってきています」と話す。 「今後の課題は量産技術を磨いていくことです。新しい半導体製造技術としては、銅線の代わりに光の道をシリコンの上に作るシリコンフォトニクスがキーワードになります。この技術が実装されると、電力消費を大幅に減らせるのでゲームチェンジになる可能性があります。台湾の半導体受託メーカーのTSMC(台湾積体電路製造)はこの技術を使った製造ラインを既につくり始めていると言われています。その先の技術を予想し、NTTの研究所では、データの送信を光で行うだけでなく、計算処理そのものを光で行うという技術開発に取り組んでいます。 これが実用化されると、アナログで処理できるため、電力消費がなくなり、半導体の構造が劇的に変わる。いわゆる『光コンピューター』が5年くらい先には登場してくる可能性があります。この光化技術は5年前からスタンフォード大学と共同研究する中で出てきたものです」 米国の東海岸とシリコンバレーの両方に駐在して先端技術情報を長年調査してきた五味氏は、米国の大学の強みについてこう話す。 「世界選抜の優秀な頭脳が集まっていて、切磋琢磨しています。特にスタンフォード大学はスタートアップに対してお金が集まる仕組み(エコシステム)ができていて、全部が当たらなくてもいいからという形で動いています。 最近気づいたのは、お金だけではなく、スタートアップをどうやって立ち上げたらよいのか、どこでリスクを取るのか、といったマネジメント能力のある人がいることです。ベンチャーキャピタリストはお金を入れるだけでなく、誰と誰を組ませたらうまくいくのかといった、お見合いさせてチーミングをうまくつくっている。シリコンバレーが強いのは、そうしたことができるマネージャーやCFO(最高財務責任者)の予備軍があり、そのネットワークを持っていること。お金と同時に人的なエコシステムは日本にない点です」と違いを強調する。