津田健次郎の“怪しさ”が優しさと笑いに 『西園寺さん』カズト横井が最高な理由
“偽家族”、“仮彼氏”と新たな家族のかたちや人との関係性をコミカルに提示してくれている『西園寺さんは家事をしない』(TBS系)。その中で、ややクセありの西園寺さん(松本若菜)と考え込みがちで繊細な楠見(松村北斗)、そしてみんなの姫であるルカ(倉田瑛茉)に溶け込みつつ、これまでとは違った新たな顔を見せてくれているのがカズト横井を演じている津田健次郎だ。 【写真】西園寺さん(松本若菜)の浴衣姿に興奮するカズト横井(津田健次郎) 横井は、黒ずくめでサングラスという、なんとも怖そうな雰囲気ながら、歌って踊って料理するという独特の世界観で、子どもから大人まで幅広い支持を得ているミステリアスな料理系YouTuber。西園寺さんとは仕事上だけの関係だったが、横井は彼女に好意を寄せており、ひょんなことからアピールを開始。今は仮彼氏として西園寺家にも出入りしている。優しくて明るい横井に極度の人見知りのルカもべったりで、保育園のお迎えに横井が来ているのを見ると駆け寄ってハグをするくらいだ。加えて、横井は西園寺さんに対する気持ちを隠さない。その愛情表現は、言葉にこそならないがまっすぐで「西園寺さんのそばで彼女を支えたい」という思いが溢れ出ている。 大人の恋愛というのはちょっと難しい。「好きです、付き合ってください」「はい、よろしくお願いします」というお互いの意思の確認のようなものが野暮だという人もいる。西園寺さんは自分のフィーリングを大切に生きてるが、他人の心の機微にも敏感だ。もし、横井が西園寺さんに気があることを“匂わせ”て、そのダンディさと艶のある声で押しに押せば西園寺さんが恋愛沼にずぶずぶと沈んでいくこともできただろう。だが横井はそれをしないどころか、先に西園寺さんと信頼関係を築いていたルカや楠見も大切にし、彼らにもプラスになるような選択をしようとする。それが横井の経験値の高さと優しさ、心の広さを強調していて、すぐ正しさにこだわって周りが見えなくなってしまう楠見との違いを感じさせるものとなっている。 横井を演じる津田が俳優としてこれまで演じてきた役は、『グレイトギフト』(2024年/テレビ朝日系)で演じた、既婚者でありながら看護師と不倫し、“ギフト”と呼ばれる殺人ウィルスを使って謀殺に加担する医師・郡司のように、謎があったり影で悪巧みをしたりするようなものが多かった。津田の武器である低音ボイスとミステリアスな雰囲気が役に説得力を持たせるのだ。その“怪しさ”は、本作でも発揮されている。 第7話で西園寺家に朝ごはんを作りにきた横井は、申し訳なさを口にする楠見に自らのことを“無料おためしサンプルおじさん”と名乗ってはにかむが、そのエプロンにはデカデカと“MY TURN”の文字が。さらに、自宅で物思いに耽りながらロックグラスを傾ける横井が映し出された場面もあったが、飲んでいたのはウィスキー、ではなくお酢。本作では、これまでの津田のイメージからして「何か裏がありそう!」と思うところがクスッと笑える部分になっている。つまり、津田にとっての武器が“コメディのもと”として使われ、見事な力を発揮しているのだ。 そのような点から見れば、横井は津田にとって新しい側面を見せる役といえるのではないだろうか。相手のことを思い、行動し、その人だけではなく、その人が大切にしている人たちが喜んでいるところを見て幸せを噛み締めている横井。素直で素朴で大らかな彼をのびのびと演じている津田の新たな魅力に、じわじわとハマってしまう。
久保田ひかる