吉田大八監督が東京国際映画祭コンペ作品『敵』について語る
ゆったりとしたペースと熟考を重ねた作風が特徴の吉田大八監督の新作映画『敵』は、まさにこの日本人映画監督のキャリアの真骨頂と言えるだろう。この作品は、2024年東京国際映画祭でワールドプレミア上映され、主要コンペティション部門に出品されている。本好きでもある監督にとって、今作もまた文学作品の映画化となった。 吉田大八監督が東京国際映画祭コンペ作品『敵』について語る 「パンデミックの始まりに、本屋が閉まってしまったので、持っている本を再読していました。その中の一つが『敵』だったんです。外に出て他人と会えない世界中の人々の様子が、この物語の主人公が送る高齢者の生活と似たようなものに感じられました」と、東京国際映画祭のラインナップ発表当日に米ハリウッドリポーターに吉田監督が語ってくれた。 吉田監督にとって、文学作品の映画化はこれまで非常に実り多いものだった。コマーシャルやミュージックビデオ、短編、テレビドラマの制作に20年を費やした後、2007年に初の長編映画『腑抜けども、悲しみの愛を見せろ』で監督デビューした。この作品は本谷有希子の小説を原作にしたもので、国内で高い評価を受け、カンヌ国際映画祭の批評家週間にも招待された。しかし、吉田監督が国際的に最も知られるようになったのは、2012年の芥川賞作家・朝井リョウによる小説を基にしたユニークな高校ドラマ『桐島、部活やめるってよ』である。『桐島、部活やめるってよ』は日本アカデミー賞の最優秀作品賞と監督賞を受賞し、異例のロングラン上映を果たした。さらに2年後、角田光代の小説を原作とした『紙の月』は東京国際映画祭のメインコンペティション部門に出品されている。 新作『敵』では、日本を代表する小説家・筒井康隆の作品を映画化。主演の長塚京三が演じる主人公は、フランス文学の元教授で、時折ゲスト講義を行い、資金が尽きるタイミングで自らの最期を計画する。そんな彼のもとには、昔の友人や元学生たちが訪ねてくる。数少ない外出の際、河合優実が演じるフランス文学の美しい学生に出会う。モノクロの映像美が過ぎ去った時代を彷彿とさせ、現実と想像の境界が曖昧になる構成である。 吉田監督は「30代の頃に初めて読んだ時とは全く違った反応をしました。60歳に近づき、親しい人の死を経験し、自分の寿命があと40~50年もないことを意識するようになり、心に火が灯りました。もしこれを映画化するとしたら、どうするかを考え始めたのです」と述べた。 映画祭のラインナップ発表記者会見の数日前に90歳の誕生日を迎えたばかりの原作者の筒井に、吉田監督は脚本を見せた。筒井は、物語が認知症についてではなく、主人公が積極的に空想の世界に没入していく内容であることを強調し、映画化を快諾した。 主演の長塚京三は若い頃にフランスで学び、仕事をしていた経験がある。当時、東アジア人が少なかった1970年代初頭のパリで、中国人将軍役としてフランスのコメディ映画『パリの中国人』に出演したことが、彼の演技に対する関心をかき立てた。しかし、吉田監督によると、『敵』とフランスの関連性はあくまで偶然に過ぎないとのこと。 吉田監督は微笑みながら「白黒で撮影した理由は、誰にも止められなかったからです」と言い、続けて「それでは理由になりませんね。モノクロには、主人公の静かでどこかストイックな生活に合う控えめな雰囲気があると感じました。でも実際に撮影してみると、観客、そして私自身の想像力を最大限に引き出す『豊かな』質感があるように思えました。だから今は、カラーで映画を作っている人たちに、なぜその選択をしているのか聞きたくなりました」と白黒で撮影した理由を明かした。 食事やコーヒーの準備を映した複数のシーンが、主人公の生活のリズムを表現しているが、吉田監督は、カラーでないと料理が美味しそうに見えないことを覚悟していた。 「でも料理担当のスタッフがとても優秀だったので、白黒でも美味しそうに見えたんです。編集している時、本当にお腹が空きましたね」 ファンタジーと現実の境界が曖昧であるのと同様に、タイトルにある謎の「敵」の正体もはっきりとは示されていない。 「北からの敵で、日本人にとって歴史的にはロシアを指します。しかし、主人公にとっての敵は、死や老いとも解釈できます。でも映画を作っているうちに、年齢に関係なく誰にとっても『敵』が存在し、それは目標や向き合うべき困難、生きる理由とも言えるものだと気づきました。それは人間にとって必要不可欠な要素の一つだと思います」 吉田大八が監督・脚本を手掛けた映画『敵』は来年2025年1月17日に公開予定。