「露朝条約」にいらだち募らせる中国、三角関係に〝きしみ〟プーチン氏の訪朝、東アジアの国際秩序に地殻変動もたらす
「建設的な対話と緊密な共同事業が続くことをうれしく思う。あなたを貴賓としてロシアの地でいつも待っている」
冷戦期、北朝鮮はソ連の援助に頼る「ジュニアパートナー」の存在だった。今回のプーチン氏の訪朝をきっかけに、北朝鮮はロシアと同等かそれ以上の関係になったといえる。
日本主導の外交攻勢で三角関係に〝きしみ〟も
こうした両国接近の動きに対し、内心いらだちを募らせているのが中国だろう。露朝首脳会談の前日の18日、中韓両国の外務・国防当局の次官級による初の外交安全保障対話(2プラス2)をソウルで開いた。中国による露朝接近への牽制(けんせい)といえる。
中国と北朝鮮の間にも、露朝と同様の規定を含む、「中朝友好協力相互援助条約」がある。中国側は「第2次朝鮮戦争」に巻き込まれる可能性がある同条約の見直しを内部で検討していた。中朝関係は「血で固められた同盟」と日本ではみられているが、決して一枚岩とは言えないのが現状だ。
今回のプーチン氏の訪朝が、東アジアの国際秩序に地殻変動をもたらすきっかけになる可能性があると筆者はみている。
日本が主導して外交攻勢をかけることで、「ロシア・中国・北朝鮮の三角関係」にきしみが生じることもあり得る。それがうまくいかなければ、日本の周辺に敵対的な「悪の枢軸」を誕生させることになりかねない。
こうした変化を日本政府はしっかりと捉え、対応できるのだろうか。いつまでも国内問題にとらわれている時間はない。
■峯村健司(みねむら・けんじ) キヤノングローバル戦略研究所主任研究員、北海道大学公共政策学研究センター上席研究員。1974年、長野県生まれ。朝日新聞社の北京・ワシントン特派員を計9年間。ハーバード大学フェアバンクセンター中国研究所客員研究員などを歴任。「LINE個人情報管理問題のスクープ」で2021年度新聞協会賞受賞。中国軍の空母建造計画のスクープで「ボーン・上田国際記者記念賞」受賞。22年4月退社。著書・共著に『台湾有事と日本の危機 習近平の「新型統一戦争」シナリオ』(PHP新書)、『ウクライナ戦争と米中対立 帝国主義に逆襲される世界』(幻冬舎新書)、監訳に『中国「軍事強国」への夢』(文春新書)など。