オルツのチャットボット作成ツールで“バーのマスター”をAI化してみた
オルツは、パーソナル人工知能を開発するAIベンチャーで、独自開発したLLMである「LHTM-2」を活用したAIサービスを展開している。同LLMを活用した、人間の人格をデジタルで再現する「CLONEdev」やノーコードでAIチャットボットを作成できる「altBRAIN」をレビューする。 【もっと写真を見る】
オルツは、「P.A.I.(パーソナル人工知能)」を開発するAIベンチャーで、独自開発したLLM(大規模言語モデル)である「LHTM-2(ラートム2)」を活用したAIサービスを展開している。 今回は、オルツのCTOである西村祥一氏に、LHTM-2を開発した経緯を伺いつつ、同LLMを活用した、人間の人格をデジタルで再現する「CLONEdev」やノーコードでAIチャットボットを作成できる「altBRAIN」をレビューする。 パーソナル人工知能のために日本発の独自LLMを開発 オルツが創業したのは2014年11月。当時は、ChatGPTのような機械学習を用いた対話エンジンはなく、ヒューリスティックな自然言語処理が主流だった。しかし、オルツは近い将来、人知を超えたようなAIと会話ができる時代が来ると見越して、準備を進めていた。 そして2017年に、生成AI誕生のブレイクスルーとなった論文「Attention Is All You Need」が発表される。オルツも論文を元に環境を構築して、研究を開始。2022年にはChatGPTがリリースされて大ブレイクした。 「我々もChatGPTに匹敵するような日本語版のLLMを作ろうじゃないかと取り組んだのが『LHTM』です。その時は、ChatGPTを使えばいいのではという声も多かったのですが、他社のLLMだとカスタマイズができない。我々が手掛けるパーソナル人工知能は、それぞれの顧客に応じてカスタマイズする必要があります。『自由にカスタマイズできる言語モデルを自社で持たなければいけない』という想いが開発の経緯です」(西村氏) 生成AIでは、事実と異なることをもっともらしく出力してしまうハルシネーション(幻覚)が混じることがある。個人用途であれば笑って済ませられるが、ビジネスユースだとトラブルの原因になりかねない。 そこで「LHTM-2」は、RAG(Retrieval-Augmented Generation、検索拡張生成)と呼ばれる手法を用いている。例えば、ある国の首都について質問されても、その答えをLLMが持っている必要はなく、根拠付けとして検索などで情報を取得し、その情報をもとにLLMが人間らしく解答してくれるのが特徴だ。 さらにハルシネーションに対して、2つの対応策を用意している。ひとつ目が、ハルシネーションスコアを算定することだ。LLMが回答した文章がどれくらい確からしいかをスコア化する。90%正しいとなっているなら信じよう、20%であれば使うのをやめよう、といった判断が可能になる。 もうひとつが、出力のソースを確認できること。もしミスがあった場合に原因を辿ることができる。AIとは言え、出力するロジックがブラックボックス化するとビジネスで使いづらい点を解消している。 人格生成プラットフォーム「CLONEdev」で経済学者の成田悠輔さんと話してみた オルツの人格生成プラットフォーム「CLONEdev」は、人間の人格をデジタルで再現するシステムだ。現在はα版で、オルツのCEO 米倉千貴氏、経済学者の成田悠輔氏、およびアーティスト・シンガーソングライターの静電場朔氏の3名がAIクローン化されており、会話ができる。 CLONEdevのサイトを開き、話したい相手をクリックすると、チャット欄や音声入力を介して対話ができる。本人の映像が表示されるだけでなく、本人の声で話してくれるのが凄い。もちろん、AIっぽさはあるが、声やイントネーションが本物に近いのだ。 実際に、成田氏のクローンに色々と質問してみた。普段切れ味のいいシニカルな物言いをする成田氏だが、AIの回答は優等生気味。とはいえ、成田氏の経験談などから回答してくれることもあり、本人と話しているような雰囲気は感じられた。 右側の言語ボタンを切り替えると、英語と中国語で回答してもらうこともできる。成田氏の声で流ちょうに話すうえ、リップシンクもしているのが驚きだ。 もちろん、CLONEdevは同社のLLMであるLHTM-2を利用している。映像に関しては10~20分の動画を機械学習させ、リアルタイムの映像を生成しているという。音声の学習に関しては、これまではスタジオに入って原稿を30分間読んだりする必要があったが、現在は10~20秒話してもらえれば、その人の声を生成できるようになっている。 AIで人格を再現するにはどのくらいのデータを学習させればよいのだろうか? 「人間は生まれた時は喋れないですが、1歳になると少し喋りはじめて、3歳ぐらいになると会話できるようになります。これは、脳が3年分、大人の言っていることなどを溜め込むからといわれ、AIも3年分のデータを入れると話せるようになる感覚です」(西村氏) SNSやブログ、議事録、Slackなどに書き込んだデータを集めると、3年分くらいのデータは集められる。それらのデータを学習させることで、その人らしく喋る対話エンジンができるという。 「将来的は、ウェアラブルなのか埋め込みなのかはわかりませんが、生まれた時から死ぬまでずっと記録される時代が来ると思っています。今は倫理的にも受け入れられる社会ではないので難しいですけど、その時に備えて、自分が見たもの聞いたものの記録は、極力取っておきたいと考えています」(西村氏) 「altBRAIN」でバーのマスターをAI化できるか試してみた 一方の「altBRAIN」は、「BRAIN」と呼ばれるAIチャットボットと対話できるサービスだ。たとえば、織田信長やアインシュタイン、坂本龍馬といった有名人と話をしたり、ゲームの攻略や料理のレシピなどを教えてもらったりできる。アカウントを作成すれば、誰でも無料で利用可能だ。 例えば、「織田信長BRAIN」に「得意な戦術は?」と聞いてみると、よしきた!と3つの戦術を提示してきた。それらしい会話ができるのが面白い。また、これらのBRAINはLINEやSlack、Discordなどと連携し、他のプラットフォームで利用することもできる。 もちろん、ビジネスでも活用も進んでいる。altBRAINのサイトでは、野村証券やJR西日本、東急不動産などのFAQのデモBRAINが公開され、実際にサービス内容などについて質問できるようになっている。 自社でBRAINを作ることもできる。ライトプランは月額20万円、スタンダードプランは月額50万円だが、フリープランも用意されているので気軽にトライアルできるのは嬉しいところ。実際にオリジナルのBRAINを作成してみた。 altBRAINのメイン画面で「Develop」をクリックし、「新しいBRAINを作る」をクリックすると作成画面が開く。まずは、「基本情報の設定」でBRAIN名や最初に出力する文章、概要、言語モデルを設定する。言語モデルはLHTM-2の他、OpenAIのGPT-4やGPT-3も選択できる。 「テキスト情報の入力」でAIへの指示やソースのアップロード、FAQの設定などを行う。これらの設定が、AIの挙動や回答の内容を左右する。 今回は、飲食店での利用を想定。顧客との対話の中から適切な商品を勧めるというものだ。もちろん、自社のメニューから提案しないとトラブルになる。そこで、扱っている商品のデータベースを作成し、CSVファイルでアップロードした。名前と価格以外に、特徴やマッチするつまみなどのデータも用意しておく。 特に、プロンプトエンジニアリングのようなことはせず、一人称や文体、対応する内容、出力フォーマットなどを文章で入力した。 「チャットを試す」をクリックすると、その時点の設定で使い勝手をテストできる。きちんとアップロードしたデータベースを元に回答してくれ、扱っていないお酒を勝手に紹介することもなかった。 質問によっては間違った回答をすることもある。そんな時は、その質問と回答をFAQとして登録しておこう。BRAINはその質問に関してはFAQの内容を優先して回答するようになる。一問一答だけでなく、複数のFAQに関連する質問にも自然な文章でまとめて回答してくれる。 今回は飲食店向けだが、企業の問い合わせ窓口でも活用できそうだ。社内向けのITサポートや総務への問い合わせも肩代わりできるだろう。もちろん、その際は有料プランの契約が必要になる。 以上が、オルツのCLONEdevおよびaltBRAINのレビューとなる。人間のAIクローンを生成するというオルツのチャレンジはすでに一定の効果を挙げている。デジタルの世界でAIクローンが働きだす未来も遠くなさそうだ。 文● 柳谷智宣 編集● 福澤/TECH.ASCII.jp