鼓童×韓国太鼓(チャンゴ)で生まれた即興性 住吉佑太×チェ・ジェチョル
佐渡を拠点に、日本のみならず世界を舞台に活動する「太鼓芸能集団 鼓童」。十二月特別公演「山踏み」では、韓国太鼓(チャンゴ)の演奏家のチェ・ジェチョルをゲストに迎えており、彼が提唱する「歩みの中から生まれてくるリズム」を探求する中で作品が生まれたという。演出を務める住吉佑太とチェがコラボレーションにいたるきっかけから、今回の公演の魅力までたっぷりと語ってくれた。 【全ての写真】住吉佑太×チェ・ジェチョルのツーショットほか 以前から、チャンゴの演奏家であるチェの存在を耳にしていたという住吉。チェは数年前に鼓童の拠点である佐渡島を訪れ、ライフワークとして続けている太鼓を叩きながら歩く“チャンゴウォーク”で1周約280キロある佐渡島を練り歩き、そこで住吉の元を訪ねたことから交流が始まった。その後、2022年にある公演にゲスト出演した鼓童とチェの共演が実現し、そこでの経験が今回の「山踏み」へとつながっていった。 住吉 2022年にチェさんと初めて共演させていただいたのが、僕が鼓童の研修生だった時の先輩である佐伯篤宣さんが主催する「冬祭」という公演でした。そして、篤さんが地元で始めた「サエキ囃子」をそこで初めて観て、僕は地元のコミュニティに根差し、郷土芸能を新たに作るという部分にすごく感動して、できることならそれを舞台で作品として発信したいと思って、その公演の打ち上げの時に「やらせてください」という話をしたんです。 チェ 僕はもともと篤くんと一緒に「サエキ囃子」を創作したメンバーでもあったので、そこで鼓童と共演させてもらったんですけど、それまでも映像で見たり、以前、鼓童にいた佑太くんの先輩である立石雷くん、日本に住むチベット人と「わたら」というグループで活動して話を聞いたりしていました。実際に共演してみて、この人たちはやっぱり一緒に生活をしてきているんだなというのを感じました。揃っているっていうか、共通する何かを持っているんだなと。それがすごく面白かったんです。 ――鼓童の太鼓と韓国発祥のチャンゴで共通点はあるんですか? それとも全く違うタイプのものなんでしょうか? 住吉 結論から言うと近いものがあるっていう感じがしたんですけど、僕は初めてチェさんがうちに来てチャンゴを叩いた時、何て叩いているかわかんなかったんですよ。いままで僕が培ってきた西洋音楽的な経験と知識、楽譜で書けるようなリズム感ではないところで音楽をしている感じがして、タイミングが絶妙すぎるというか……。「どこで叩いているんですか、それ?」みたいな(笑)。でもすごくグルーヴィーで、心地よく、いつまでも聴いていたくなるような感じがして、魅力的でした。 最初はチェさんにチャンゴを教えてもらおうと思ったんですけど、チェさんに「いいよ。でも、そんなのは歩けばわかるから」と言われて、半信半疑のまま佐渡島をみんなで一周しました。それは今回の公演のコンセプトでもある「歩みから生まれるリズムを探求する」ということにつながっています。 並んで6時間くらいセッションしながら、足だけを合わせて、あとは「自由に叩いていいよ」という感じで、自己発生型のものをすごく大事にされていて、実際にやってみたら、チェさんが何て叩いているかわかるようになったんです。 西洋音楽的な音符って点の連続なんですけど、身体動作と共にチェさんのリズムを見ると、そこが線で結ばれているリズム感みたいなものが見えてくるんですね。その音楽的観点は新たな発見で、それは今回の公演にもふんだんに盛り込まれています。 実際、佐渡での初演でもお客さんのノリがよくて「グルーヴがすごかった!」とおっしゃっていました。 チェ 今年1月に「叩き歩きをしよう」ということで、最初に少しだけワークショップをしたんですが、そこから1年をかけて、みんなすごく変化したと思います。歩き、叩き、景色を見て、さらに周りの人と話をするというところまで仕上がってきて、叩き歩きを楽しめるようになってきたなと思います。1日6~7時間を歩くとしんどくもなるけど、すごく人間が大きくなっていくというか……それは佐渡での初演が開けた時に感じました。 ――歩きながら叩くという段階から今回の公演「山踏み」のために作品に落とし込んでいくというのはどのようなプロセスだったんでしょうか? 住吉 普段、作品を作るとなると、稽古場にこもって1年半くらいをかけてじっくり作っていくんです。今回はそのアプローチではなく、ギリギリまで細かい部分を詰めずに、ひたすら歩くことだけをして、直前の1週間くらい前に作ったんです。歩くことで根っこの部分を成長させて、組み立てに関しては粗暴なままでやってみようと。これまで緻密さを求めていたんですが、あえて今回、粗暴なものにすることでそれぞれの個性や佐渡の風土が隙間からにじみ出てくるようになればいいなと思っていました。 作品としては、歩くことで生まれたリズムを丸ごと反映させたものもありますし、後は先ほども言った自己発生型のリズム――「このリズムで叩きましょう」ではなく「足だけ合わせて、フレーズは何でもいい」という感じで、即興で6~7時間、叩く中で芽生えてくるものがあるんですね。普段、鼓童では即興ってなくて、むしろ昨日も今日も同じ作品、同じクオリティである“再現性”を大事にしてきたんですけど、今回は昨日と今日と明日で全然違う公演にしたいなと。 チェ そう考えるとすごくチャレンジングな試みだよね。 ――普段と180度異なるアプローチですが、「何とかなる」という勝算はあったんですか? 住吉 なかったですね(笑)。「通し稽古3日しかないけど、どうなるんだろう?」と思っていたし初日が終わるまで心配でした。でも良い意味で隙間だらけの作品になったし、そのフレキシブルさが「山踏み」の良さだなと思います。 チェ 僕は表現が出てくる“前”の段階が好きなんです。佑太くんもそこに着目してくれたし、1年をかけて歩き続ける中で、同じ景色を見て、共通の体験、感覚が芽生えてくるんですよね。 ――チェさんにとって、即興性は普段からの当たり前のプロセスだったわけですね? チェ そうですね。韓国太鼓も決まったフレーズはあるんですけど、1000個くらいあるフレーズから、即興的に選択をしていくんですね。 ――「歩みの中から生まれてくるリズム」というコンセプトはどのように生まれたものなのですか? チェ 僕は22歳くらいから叩いてるんですが、地下の部屋で先生に「これは山間部のリズムだから跳ねるんだ!」とか言われて、山間部の人々の暮らしをイメージしながら叩くわけです。とはいえ地下なので、なかなかイメージがわかないんですね(苦笑)。 ある時、熊野古道を歩いていた時に、「ちょっとだけ山の道に入って叩いてみよう!」って叩いた瞬間、それまで先生に言われてきたことがパーッとハマったんです。急な山道を歩きながら、足にグッと力を入れた瞬間、右手がパンっとなって「あぁ、これだ!」って(笑)。 住吉 歴史的にも「歩きながら叩く」というのは世界中の民族音楽にあって、日本にもあるんですけど、そういうリズムの起こりみたいなものを叩き歩きの中で感じたので、そのエッセンスを今回の公演で取り込みたいなと思いました。 今回、嬉しかったのは、佐渡での公演を見に来てくださった、ずっと鼓童を応援してくださっている方が「新しいけど懐かしい感じがした」という感想をおっしゃってくれたことで、それはまさに自分が目指すものでした。奇をてらう新しさではなく、スーッとなじむようなものを作りたいと思っていたし、それは「歩く」ということから作ったのが大きかったと思います。 ――チェさんが鼓童との出会いで手に入れたものはありましたか? チェ 僕は、1年をかけてメンバーがちょっとずつ変化していく姿を見ることができたのが何より楽しかったです。だんだん、みんなの顔が変わっていくんです。何があったのかをイメージするのが面白かったですね。僕は自分がどう叩くかということより、周りを見て、セッションするのが好きなんです。 ――東京での公演を楽しみにされている方にメッセージをお願いします。 住吉 チェさんという新しいゲストを迎えての公演であり、みんなで280キロの佐渡島を歩きながら生まれた作品だからこそ、根源的で本能的なリズムにあふれているので、そこをぜひ楽しんでいただきたいです。毎日、内容が違ってくるので、何度も見てほしいし、これまでにないことをやりつつも懐かしさを感じていただけたらと思います。 チェ 普段であれば、ソロの順番とか小節数も決まっているんですけど、僕の楽曲「ソルチャング 四季」はオープンソロと言って、誰がどういうふうに出てくるのか全く決まってないし、ソロなのかデュオなのかも決まってなくて、なんならトリオになったら面白いなと最近、思い始めてるんですけど(笑)。それくらい、みんなで楽しむ――でも、そのためには周りに気を配り、気配を感じないといけなくて、そういう部分をぜひ楽しんでもらえたらと思います。 取材・文:黒豆直樹 <公演情報> 鼓童十二月特別公演2024 「山踏み」 公演日程:2024年12月19日(木)~22日(日) 会場:文京シビックホール 大ホール
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