「表現の不自由展・その後」再開 なお残る乗り越えるべき論点
作家側が開く対話の可能性
対話という意味では、8日の展示再開に合わせて作家側が「Jアートコールセンター」というプロジェクトを立ち上げました。今回、大きな問題となった「電凸」を、県職員らの代わりに作家が引き受けようという試みです。劇作家の高山明氏が中心となり、アーティストやキュレーターら30人ほどが交代で、5回線分の電話で応答に臨みます。 マニュアルはなく、作家それぞれがその場で対応。単純に公務員を批判するためにかけてきた電話には応対しないつもりで、録音はしても、その内容の公開も考えていないそうです。高山氏は「今回の件で海外の作家に対して日本の作家の対応は弱いと言われたが、むしろその弱さで行動ができるのではないかと考えた。本当に怒っている人よりも、今まで意見が言いたいのに言えなかったという人たちの声を聞いてみたい」と話します。会期末の14日までの毎日、正午から午後8時まで受け付け。電話番号は「050-3177-4593」です。 また、作家側のもう一つの動きとして「あいちプロトコル(宣言)」の作成があります。今回の教訓を今後の美術や社会に生かしてもらうため、芸術家、鑑賞者、芸術監督とキュレーター、そして国や地方自治体のとるべき行動規範を明文化するという試みです。 もともとは県側から提案のあった動きですが、作家が主体となるべきだと、出展作家の村山悟郎氏が中心となり原案を起草。フォーラムの場や、今回の事態を受けて地元商店街の中に開いたアーティスト運営スペース「サナトリウム」で市民を交えてブラッシュアップをしてきました。6日夜の市民参加型会議では「ヘイトスピーチとの関係を入れるべきだ」「主体がまだよく分からない」「宣言した以上は責任が生じる」などとさまざまな意見が出ていました。今後も随時バージョンアップさせていくことを前提にいったん完成させ、トリエンナーレ実行委に提案、14日までに会長の大村知事名で署名がされる見込みです。 こうして見ると、美しい大団円に向かっているような動きです。しかし、逆にこうした議論や取り組みが開幕前に少しでもできていればという思いも募ります。 芸術監督の津田大介氏によれば、不自由展の詳細についての発表は、開幕の1カ月ほど前にする予定があったが、安全性を理由にとりやめたそうです。 県側は手続きに瑕疵はなかったと主張しますが、これが表現の自由以前の問題として戸惑いや混乱、反発を招き、補助金の全額不交付という国の乱暴な決定を正当化させる余地を与えてしまっているのも事実でしょう。この点の反省や責任の所在の検証は、閉会後も怠ってはいけないのではないでしょうか。 (関口威人/Newdra)