尹大統領の弾劾案、韓国国会で不成立 与党ほぼ全議員が退場し定足数満たさず
韓国の尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領に対する弾劾訴追案は7日夜、国会で採決が進められたが、与党「国民の力」の議員が3人を除いて全員、投票をボイコットしたため、投票議員が定足数に達せず不成立となった。尹氏は大統領の職務を継続する。 国会はこの日、午後5時に本会議を開いた。弾劾訴追案の採決に入る直前、108人いる「国民の力」の議員が、安哲秀(アン・チョルス)議員1人を除いて全員、議場を退出した。聯合ニュースによると、同党は採決を前に、党として反対する方針を決定していた。安氏はかねて賛成票を投じると表明していた。 弾劾訴追案は、賛成が在籍議員300人の3分の2(200人)以上で可決、それ未満だと否決になる。投票は無記名で行われた。 議案を提出した最大野党「共に民主党」など野党勢力は192人で、可決には与党から8人以上の「造反」が必要だった。与党のほとんどが投票を拒んだままで、議決に必要な人数の定足数も満たさない状況だった。韓国メディアによると、定足数は200人だった。 そのため、禹元植(ウ・ウォンシク)議長(「共に民主党」)や野党議員らは、退場した与党議員に対し、議場に戻り、投票するよう呼びかけた。禹議長は、「大韓民国は国民の血と涙でできた民主主義の国だ」、「あなたたちは歴史、国民、そして世界によって裁かれることを恐れないのか?」、「投票に参加すること、それが民主主義を守ることだ」などと訴えた。 野党議員が投票を長引かせるなか、午後7時半(日本時間同)までに与党の金礼智(キム・イェジ)議員、金尚旭(キム·サンウク)議員が議場に戻った。金尚旭議員は、党の方針に従って弾劾訴追案に反対票を投じたと記者団に説明。投票することが大事なので議場に戻ったと話した。 規定では8日午前0時48分までは投票が可能だった。野党側はさらに待つ構えをみせた。 しかし、禹議長は午後9時20分ごろ、票の集計を指示。その結果、投票に参加した議員が定足数に達しなかったため「投票は成立しなかった」と宣言した。 ■「戻って投票せよ」 与党議員が議場を退場した際には、野党議員からは「裏切り者、戻れ」といった声が飛んだ。与党議員に駆け寄り、議場から出るのを防ごうとする野党議員もいた。 国会前では採決が始まる前から大規模な抗議集会が開かれた。退出した与党議員の名前が一人ずつ読み上げられると、そのたび集会参加者らからは「戻れ、投票しろ」という声が上がった。 国会ではこの日、弾劾訴追案の採決に先立ち、尹氏の妻の金建希(キム・ゴンヒ)氏の捜査における特別検察官の任命に関する法案の採決があった。金氏をめぐっては株価操作などの疑惑が浮上している。 この法案は、賛成198票、反対102票で否決された。可決には賛成200票以上が必要だった。 ■弾劾訴追案の採決に至るまで 尹氏は3日夜に突如として非常戒厳を宣布。しかし、国会の要求に従って約6時間後にはこれを解除した。 最大野党「共に民主党」などは、これを「内乱行為」と非難。野党6党で4日、尹氏の弾劾を求める弾劾訴追案を国会に提出し、この日の採決となった。 尹氏は4日朝に非常戒厳を解除して以来、公の場で発言していなかったが、この日朝に演説し、非常戒厳について謝罪した。辞任や弾劾については言及しなかった。 韓国の警察は5日、野党の告発を受けて尹氏を「内乱」の疑いで捜査していると発表した。国会も同日、非常戒厳の宣布に関する調査を開始した。 戒厳令による統制を図った尹氏の動きは、国民の怒りを呼び、直後からソウルの街頭などで抗議行動が繰り広げられている。 韓国では過去に複数の大統領が弾劾されている。 2016年には、当時の朴槿恵(パク・クネ)大統領に対する弾劾訴追案が可決された。収賄、国家権力乱用、国家機密漏洩に関わったとされた。のちに憲法裁判所によって罷免された。 2004年にも、当時の盧武鉉(ノ・ムヒョン)大統領が弾劾され、2カ月間、職務停止となった。しかしその後、憲法裁判所の判断で大統領に復帰した。 今回、尹大統領が辞任するか弾劾されれば、政府は60日以内に大統領選挙を実施することになる。新大統領は新たに5年の任期をスタートさせる。 (英語記事 Live Reporting:Vote to impeach South Korea’s president fails after boycott by ruling party MPs)
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