イルカはいつ、なぜ攻撃的になるのか、攻撃の前兆は? 知っておきたい生態のウソとホント
人間の道徳はイルカにあてはまらない
オスが定期的に子殺しを行うハンドウイルカの群れもある。 「もしメスと一緒にいる子どもが自分の子どもではなかったら、オスはその子どもを殺そうとするかもしれません」とリード氏は話す。子どもがいなければ、メスは交尾を受け入れやすくなり、オスは自分の遺伝子を残しやすくなるためだ。 アフリカのライオンは、オスが群れを乗っ取ると、「まず群れにいる子どもを皆殺しにします。進化の観点から、この行動は理にかなっています」とリード氏は説明する。 「人がつくった社会的行動や道徳に照らし合わせ、私たちは恐ろしいと考えます」。しかし、リード氏によれば、動物界ではよくあることだ。 「ハンドウイルカは種として、いじめっ子のような気質を持っています」とハージング氏は話す。ハージング氏は、単独のハンドウイルカがネズミイルカ(Phocoena phocoena)を殺す行動を例に挙げ、その理由は解明されていないと述べている。
死体と交尾する例も
もっと不可解なのは、同じ種の死亡した個体と交尾する行動だ。フロリダ州のサラソタ湾周辺では、オスのハンドウイルカによる同事例が4件記録されている。 「これは非常に珍しいことです」とキンケード氏は話す。キンケード氏は米モート海洋研究所・水族館に所属していた2022年の研究で、ハンドウイルカの死体との交尾行動を4件報告した。モート海洋研究所・水族館は、50年の歴史を持つ世界最長のイルカ研究「サラソタ・イルカ研究プログラム」を運営している。 この行動をとったオスのペア4組は互いにつながりがなく、交尾相手の死んだメスとも無関係だった。 水中にフェロモンが存在した、オスたちはメスがまだ生きていると勘違いしたなど、この行動を説明する主な理由は考察の結果除外されたため、この現象は今も謎のままだ。 「彼らに人の道徳規範は通用しません」とキンケード氏は話す。たとえ何らかの道徳規範があるとしても、イルカたちの意図を知るのは難しい。