アメリカ人は景品が取れるまで帰らない…ラウンドワンが北米市場に「日本式ゲーセン」を持ち込んだ狙い
■アメリカ人は景品が取れるまで帰らない 米国流ラウンドワンでは、特にクレーンゲームに目をつけました。従来のアメリカでクレーンゲームといえば、ショッピングセンターやスーパーマーケットの片隅に置かれた、子どもの時間つぶしの道具でした。私たちはここにチャンスがあると考えたのです。 子どもだけでなく大人もクレーンゲームにのめり込むのは、日本で実証済みです。だから隅っこではなく、ゲームセンター全面にどかんと150台ほど並べればきっとウケる。そんな初めて目にする風景を、新しいものを好むアメリカ人ならびっくりして喜んでくれるはず。何しろそこに並べるのは、日本製の極めてハイクオリティな最新ゲーム機なのです。 そのうえで、景品には日本のキャラクターグッズを揃えました。日本のアニメやマンガなどのキャラクターはアメリカでも大人気だから、それを景品にすれば喜ばれるのは間違いないと踏んだ。実際に大当たりでした。いまこの瞬間にも、多くのアメリカ人が「ドラゴンボール」や「鬼滅の刃」の景品を競って獲得しようとしています。 もう一点追い風となったのが、出店スペースです。アメリカではAmazonを頂点とするECサイトの普及によって、小売り大手のシアーズが経営破綻するなど、ショッピングセンターから中核テナントが撤退し始めていました。その跡地は4000~6000平方メートルと、ラウンドワンの出店に最適な広さ。実際にアメリカでの出店候補地の7割ぐらいはシアーズの跡地です。 もともとショッピングセンターは、集客に有利な立地にあります。低価格のファストフードなどが呼び水となり、ついでにラウンドワンにも立ち寄ってくれる。ゲームやボウリング、さらにビリヤードなども楽しめる複合店舗には大きな強みがあるのです。 20年、世界はコロナ禍に見舞われました。アミューズメント業界全体が大きな痛手を負い、当社も例外ではありませんでしたが、この危機を救ってくれたのがアメリカ事業でした。 アメリカではコロナ禍の外出自粛期間中に、日本のアニメがよく視聴されていました。そのため、クレーンゲームの景品フィギュアなど、日本のアニメのキャラクターグッズを欲しがる人が急増したのです。また、アメリカでは政治的な決断によって日本より1年半も早く日常生活を取り戻していたこともあり、早い段階からラウンドワンに顧客が戻ってきたのです。 そんなアメリカの人たちは、お金の使い方も日本と違います。気っ風がいいというか、宵越しの金を持たない江戸っ子気質とでもいえばいいのか。狙ったグッズを手に入れるまで諦めず、際限なくゲームを遊ぶのです。 ゲームセンターは原価の中で固定費が占める割合の大きいビジネスです。アメリカでは人件費こそ高いものの、家賃は日本の半分、光熱費が3分の1程度にすぎません。損益分岐点が低いため、売り上げが増えればそれだけ利益も高まります。当社の稼ぎ頭はアメリカですから、現時点で北米52店舗の出店数を、28年度までに100店舗まで増やす計画です。 いまアメリカでは日本食に対する期待値がとても高まっています。訪日観光客も和食を楽しみたい。けれども超一流の日本料理店ともなれば、簡単に予約を取れない。ここに次のチャンスがあると見ました。 ただし単店ではなく、ゲームセンターのように複合体で勝負します。ミシュランなどで評価が高い国内のトップ16店舗から協力を得て、寿司や天ぷら、焼き鳥など複数の料理ブースを揃えた「ラウンドワンデリシャス」を出店し、客単価は10万円を想定しています。 そのために必要なのはやはりヒトです。一定のキャリアを持つ選り抜きの料理人を集めて、さらに協力店で修業を積んでもらい、アメリカに送り出す。現時点で、日本料理の職人を80人育成しています。これからマンハッタンをはじめとして、ロサンゼルス、ラスベガスなどに出店していく予定です。 エンタメ事業から日本料理店事業へのジャンプは、一見無謀に見えるかもしれません。けれども、人を楽しませるコンテンツ提供という、私たちのビジネスの原点は少しもぶれていない。はた目には無鉄砲に見えたとしても、常に成長を目指し続けるスタンスこそが私たちの強みであり、その成果が現状につながっているのです。 ※本稿は、雑誌『プレジデント』(2024年11月1日号)の一部を再編集したものです。 ---------- 杉野 公彦(すぎの・まさひこ) ラウンドワン代表取締役社長 1961年、大阪府生まれ。桃山学院大学在学中の80年、ラウンドワンの前身となる杉野興産を創業。アミューズメントや「スポッチャ」等の遊戯施設を国内に100店舗、海外に56店舗展開している。 ----------
ラウンドワン代表取締役社長 杉野 公彦 構成=竹林篤実