いつぶり? 真逆? 校閲記者も迷う日本語表現これは使っていい「ことば」なの?
2017年に発売された『校閲記者の目』(毎日新聞校閲グループ 著、毎日新聞出版)は、2011年にスタートしたツイッター(現・X)とその翌年に開設されたサイト「毎日ことば」(現「毎日ことばplus」)などに書かれたことをまとめたもの。 きょうご紹介する『校閲記者も迷う日本語表現』(毎日新聞校閲センター 著、毎日新聞出版)は、そちらに続く第2弾です。 『校閲記者の目』発売当時は、それに続くものなどないと考えていたそう。ところが、そののちサイトで始まった「ことばの質問」が校閲記者の日々の悩み、迷いをよく映し出したものなっていたため、それを一冊の本として構成できるのではないかと思い立ったのだといいます。 初めて見る言葉や言葉の使い方に、読者が違和感を抱かないだろうかと悩みます。そのうち広く使われて定着していく過程を日々の仕事の中で校閲記者たちは感じます。この過程を第1章と第2章に分けてみましたが、皆さんはどう感じるでしょうか。(「はじめに」より) その点を確認してみるために第1章「この言葉、使っていますか?」と第2章「新たな言葉が定着していく」のなかから、気になるトピックをそれぞれひとつずつ抜き出してみたいと思います。
「おかしい」と感じつつも使われる「いつぶり」
[質問] やっと会えた! 会うのは「いつぶり」だろうーー「 」の中、どうですか? [回答] おかしくないし、自分でも使う……28.8% おかしくはないが、自分では使わない……8.5% おかしいと感じるが、使うことはある……26.7% おかしいと感じるし、自分では使わない……36.0% (12ページより) 「いつぶり」という表現に関する評価については、「おかしい」とした人が3分の2近くと多数を占める一方、使うか否かという観点からは「使う」とした人が過半を占めるという興味深い結果が出たそうです。 つまり、「おかしいとわかっていても使う人がいることで広まっている用法」だということ。なお、明鏡国語辞典3版は接尾語「ぶり」の項目において、「注意」として次のように説明しているようです。 「大学二年ぶりの再会」など、「ぶり」の前に<物事の起点>がくる言い方は誤り。 「ぶり」の前には<経過した時間>がくる。 また、「先生に会うのはいつぶり?」など、時を尋ねるのに「いつぶり」と言うのも誤り。正しくは「何年ぶり」「いつ以来」。(14ページより) この説明のうち、「また」以下の「いつぶり」に関する部分は2版(2010年)にはなく、3版(2021年)で加えられたというのが興味深いところ。一方、三省堂国語辞典8版は「ぶり」の⑤で以下のように述べているといいます。 [俗][しばらくとぎれていたことについて]…以来。「君と会ったのはいつぶりかな・去年ぶり」(一九八〇年代からある用法)(14ページより) 三省堂国語辞典は新しい用法を積極的に取り上げることで知られていますが、この説明は7版(2014年)にはなく、8版(2022年)で加えられたもの。「誤り」ではなく「俗用」とされてはいるものの、これは実態として使用頻度が無視できないものになったのだと読み取るべきではないか? 著者はそう述べています。(12ページより)