ハーバード大学准教授が語る「メンタル危機」になる前のセルフケア...認知療法で使われる技術とは?
『スラムダンク』が、私の人生を変えた
2つめは、メンタルに苦しむお子さんを抱える親御さんと、医師として接する機会です。毎日たくさんのご家庭の親御さんとお話をして、その頑張りや苦しみを聞いています。例えば、その中でお子さんに薬を処方する際には、その科学的な背景や、効果が出る場合とそうでない場合があるという点を説明するのですが、親御さんの不安は手に取るようにわかります。何が一番よいか言い切れない状況でも、一緒に選択して、その後の結果に応じて調整していこうと一緒に歩んでいく。そのプロセスを通じて、さまざまな価値観にふれられ、人間の理解につながっています。 こうした子育てと、親御さんたちとの対話を通じて、分断の反対側にいるような、正反対の人たちの感じ方にも思いを馳せる姿勢を培ってきたと思います。 ──内田さんの人生観やキャリアに影響を与えた本は何でしたか。 まず紹介したいのが『1945年のクリスマス』。日本国憲法に女性の権利を記載してくれたユダヤ系アメリカ人、ベアテ・シロタ・ゴードンによる自伝です。この本については私の著書『ソ―シャルジャスティス』(文春新書)の中でも紹介しました。 彼女が日本国憲法草案作成チームに選ばれたのは22歳のとき。ウィーンで生まれ日本で育った彼女は、日本文化を深く理解していました。ベアテは、日本の女性が幸せになるためには男女平等が大事だと考え、女性と家庭の条文を書いたそうです。憲法に女性の権利を具体的に書いていれば、民法でも無視することはまずできない。官僚の大半が男性で、その多くが保守的だからこそ、「私がこの条文に女性の権利を盛り込むしかない」と──。そんな彼女の決断には心に響くものがありました。 私の人生を変えた一番の本は、漫画の『スラムダンク』。主人公である桜木花道の常に自分を信じる姿や、バスケットへの愛が育っていくところが大好きなんです。特に好きな登場人物は仙道彰。優しくて、静かな自信をもってやるべきことをやる。それをひけらかすことはなく、仲間の力を活かしていく。そんな静かなリーダーシップの体現者です。 スラムダンクには悪者が一人もいません。対立がある中でも、どの登場人物にも魅力があり、彼らを応援したくなる。仲間とともに目標をめざす姿に惹かれるし、何度読んでも心揺さぶられる漫画です。 クラシック音楽コメディ『のだめカンタービレ』も大好きな漫画です。20代の頃、この漫画の影響から、イェール大学音楽院で学生が演奏するコンサートを毎週観にいくようになりました。私の夫はチェリストなのですが、そのコンサートで彼を知りました。この漫画がなければ結婚していないでしょう。「人生を変えてくれてありがとう」と思える一冊です。 大好きな漫画にも、「この女性の描かれ方はどうだろうか」と問題に感じる点はあります。それでも、その漫画への愛は変わらないし、「好きなものなら全部好きでないといけないわけでもない」「問題点を認識したうえで何かを大好きで居続けることもできる」「大好きなものにも課題を感じてもいい」。そのことを子どもたちにも伝えていきたいですね。 <内田舞(うちだ まい)> 小児精神科医、ハーバード大学医学部准教授、マサチューセッツ総合病院小児うつ病センター長、3児の母。2007年北海道大学医学部卒、2011年イェール大学精神科研修修了、2013年ハーバード大学・マサチューセッツ総合病院小児精神科研修終了。日本の医学部在学中に、米国医師国家試験に合格、研修医として採用され、日本の医学部卒業者として史上最年少の米国臨床医となった。 <flier編集部> 本の要約サービス「flier(フライヤー)」は、「書店に並ぶ本の数が多すぎて、何を読めば良いか分からない」「立ち読みをしたり、書評を読んだりしただけでは、どんな内容の本なのか十分につかめない」というビジネスパーソンの悩みに答え、ビジネス書の新刊や話題のベストセラー、名著の要約を1冊10分で読める形で提供しているサービスです。 通勤時や休憩時間といったスキマ時間を有効活用し、効率良くビジネスのヒントやスキル、教養を身につけたいビジネスパーソンに利用されており、社員教育の一環として法人契約する企業も増えています。 このほか、オンライン読書コミュニティ「flier book labo」の運営など、フライヤーはビジネスパーソンの学びを応援しています。