ミュージカル『この世界の片隅に』こうの史代×昆夏美×大原櫻子×アンジェラ・アキの座談会が実現
ミュージカル『この世界の片隅に』が、5月から7月にかけて東京・北海道・岩手・新潟・愛知・長野・茨城・大阪・広島で上演される。このたび、原作者のこうの史代、主人公の浦野すずをWキャストで演じる昆夏美と大原櫻子、そして音楽を手がけるアンジェラ・アキの4名による座談会が実現。その模様を綴ったオフィシャルレポートを紹介する。 【全ての写真】こうの史代×昆夏美×大原櫻子×アンジェラ・アキインタビュー写真ほか 座談会は稽古場で実施され、原作の創作秘話やミュージカル版の見どころ、聞きどころなどが存分に語られた。なお、こうのは、アンジェラと昆、大原と今回初対面を果たした。
原作者に聞く、「すず」誕生秘話
大原 今日はお忙しいなか、稽古場までいらしていただきありがとうございます。 昆 お会いできて本当に嬉しいです。緊張していて、うまくお話できるか分かりませんが(笑)。 こうの いえいえ、私こそ嬉しいです。おふたりとも、キラキラキラキラされていて。 アンジェラ そうなんですよ。それにふたりとも、もうすずさんそのもの。今日は昆ちゃんの稽古を見ていただきますが、どちらも魅力的なので、本番はぜひ両方見ていただきたいですね。 昆 私が最初に原作を読んだ時に心打たれたのは、戦争を扱っていながら、常に温かい空気が流れているところでした。「戦争はいけません!」と声高に訴えるのではなく、今の私たちとも変わらない“人の心”に焦点が当たっていて、だからこそ、すずさんの喪失感がより迫ってきたのだと思います。その後も読む度に色々な発見があって、今、特に気になっているのはすずさんの表情。分かりやすく笑ったり怒ったりしている時もあれば、もっと奥深い表情をしている時もあることに気付いて、どう自分の中に落とし込んだらいいかを考えながらお稽古しています。 こうの 確かに、そこは演じる方の解釈によってくるところですよね。すずの個性に昆さんと大原さんの個性が重なった時にどうなるのか、すごく楽しみです。 大原 すずちゃんの個性というところでぜひお聞きしたいのですが、主人公を「ボーっとした」キャラクターに設定したのはどうしてなんですか? こうの そのほうが、この時代と場所に馴染みのない読者でも、物語に入り込みやすいと思ったんです。主人公が最初から呉でチャキチャキ頑張っている人だと、会話の中で状況を説明する隙がないですよね。でもよそから来たボーっとした人が主人公なら、主人公が周りの人たちに色々と質問をして、それに答える形で状況の説明ができるんです。 アンジェラ ああ、なるほど。私もそこはぜひお聞きしたかったのですが、すごくしっくり来るお答えです。 ノンフィクションのようにリアルな秘密 アンジェラ すずさんや周りのキャラクターに、モデルはいるんですか? こうの 周作の職業だけは私の親戚をモデルにしていますが、あとは全部創作ですね。 アンジェラ そうなんですね! 初めて原作を読んだ時、私にはまるでノンフィクションのように感じられて、先生ご自身やご家族の体験談なのかと思ったほどでした。 大原 分かります、それくらいみんなリアルなんですよね。私はすずとリンさんの関係性にも惹かれているのですが、リンさんはどんな思いから生まれたキャラクターなのでしょうか? こうの すずに家族とはまた違う、同世代の友達との世界を作ることで、もうひとつの“世界の片隅”を表現したかったというのがひとつ。それから、当時の呉には実際に遊郭があったので、そういう過酷な境遇の人たちをいなかったことにはできない、というのもありました。 大原 ありがとうございます。やはり史実に基づいているからリアルなのですね。 昆 少し話が逸れてしまうのですが、すずもリンも、元素名から名前が取られているんですよね。調べてみたら全員そうで鳥肌が立ったのですが、それはなぜなんですか? こうの キャラクターの名前って、自分の思いつきだと似通ってしまうから、系統立てて考えることが多いんです。最初は呉の地名にしようかと思ったのですが、呉には硬い地名が多いんですね。悩んでいた時、たまたま近くに周期表があったので、これを使おうと(笑)。たくさんある元素の中で「すず」を主人公にしたことには、私が飼っていたインコの「すずしろ」が関係しています。ある時いなくなってしまったのですが、どこかでずっと元気にしていてほしくて、新天地で頑張る主人公にその思いを込めたんです。 昆 そんな大切な思いが込められていたんですね! お聞きできて良かったです。 アンジェラ 本当に。貴重なお話ばかりで、なんだか得した気分です(笑)。