「通訳でありながらデータでもあり、時にはボディーガード」オールスター選出の今永昇太とスタンベリー通訳の“幸福な関係”<SLUGGER>
「自分が野球やっていた時、トラックマンとかラプソードとかも、あるにはあったけど、使ったことがありませんでした」とスタンベリー通訳。 ストレングス&コンディショニング・コーチの肩書も持っている彼は、暇な時にはトレーニングをしているそうで、ひとことで言うと筋骨隆々。横幅がとにかく「デカい」。控え目な性格で、普段は選手の陰に隠れているが、いわゆる「コミュ力」に優れた好青年である。 「通訳をやる前に働いていたスポーツジムは主にアスリートを対象としていて、野球とかソフトボールをやっていた子たちも多かったので、回転数がどうとか、回転軸がどうとかいう話はしていた。元々、そういう数字に興味はあったんですが、身近になったのは今永さんの通訳になってからの話で、今年のキャンプで、(ダニエル・)モスコス投手コーチ補佐から全部、教わりました。彼と二人で座って、これはどういう意味なんだ、とか」 野球選手と彼が所属するチームのコーチやメディカルスタッフが、特定の事柄について共通認識を持っていることは、とても重要だ。スタンベリー通訳は今永とコーチ陣をつなぐために、いわゆる「アナリスト(分析)」的な視点を備えるようになったわけだが、それは今永が言う「エドウィンとは結局、野球の話ばかりしているかも」という二人の関係性とも無関係ではないだろう。「この選手はどんな評価なの?」という素朴な疑問に対して、エドウィンが率直に答える。それだけで十分なのだ。 「すでに今、メジャーでプレーしている人に関しては『オールスター何回選ばれてます』とか、契約の話とか、去年の成績とか二年前の成績とか見て『この人のOPSはこのぐらいです』とか。マイナーから上がって来たばかりの選手だったら、3A、2Aの成績を調べて。大学時代、高校時代の成績も出せますので、今永さんから質問されたら言いますけど、これは面白い情報と思っても自分からは言わないです」 不必要な情報を伝えて、情報過多になることを避ける思慮深さは、さすが元捕手と言った方がいいのかも知れない。シアトル近郊で育った彼が、少年時代に憧れた選手は、地元のマリナーズで活躍した城島健司だったそうだ。 「初めてやったリトルリーグの試合で、キャッチャーだったんです。背番号も2だった。ある試合で城島さんがホームに突っ込んできたランナーにタックルされて、でもボールを離さずアウトにした姿を見て、めちゃくちゃカッコよくて」 スイッチヒッターの捕手だったそうで、ハワイ大野球部のホームページで今でも、今よりも細い彼の雄姿を見ることができる。卒業後は独立リーグでプレーし、さらにステップアップしたい気持ちもあったそうだが、パンデミックでほとんどの独立リーグが活動休止になり、現役を引退。苦労してストレングス&コンディショニング・コーチの資格を取り、地元シアトルのジムで勤務している時に、「カブスが通訳を探している」という情報を聞いたそうだ。 「キャンプ初日には間に合わず、僕が参加したのは途中からなんですけど、実はそれまで今永さんには実際に会ったことがなかったんです」とスタンベリー通訳。 アメリカ育ちなので、メジャーリーグにはある程度詳しいが、日本のプロ野球をそれほど知っているわけではない。それでも、昨年のWBC決勝で先発した今永の雄姿はよく覚えていた。
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