ZEDD『Telos』全曲解説 ミューズらと異種交配コラボ、EDMを超越した新たな到達点
6~10曲目 アルバム後半もサプライズ多数
6. 「Lucky」(feat. Remi Wolf) 8月に2ndシングルとして先行リリースされていたナンバー。今年のフジロック出演は白紙となったが、7月に発表された2ndアルバム『Big Ideas』が好評のレミ・ウルフがゲスト参加した。もともと彼女がソングライターとして提供していた曲で、その後、さまざまなアーティストに歌入れしてもらったが、最終的にはレミこそが適任ということで彼女が歌うことに。レミらしい大らかでカラフルなキャラが全開だ。前述のエリスもプロデュース他で参加する。 7.「Dream Brother」(feat. Jeff Buckley) 前アルバム『True Colors』のリリース後も、シングルヒットは途絶えなかったゼッド。だが、アルバム制作に臨むまでのインスピレーションは得られずにいたそうだ。結果、9年ものインターバルが空いてしまったが、その突破口となったのがこの曲だ。エレクトロニックミュージック以前には、ロックバンドに参加していたこともある彼は、もともとジェフ・バックリィ(1966-1997)の大ファン。いつかジェフのこの曲をダンスミュージック風にアレンジしてみたい、と密かに思っていたそうだ。ジェフとバンドのオリジナルの歌や演奏をそのまま活かしつつ再構築。祈りを捧げるかのような呪術的な原曲のムードも、継承されている。故人の楽曲のリメイクで、しかもオルタナティブロック系というので驚かされるが、そもそもこのアルバムの制作のきっかけは、全てこの曲から始まったそうだ。 8.「Descensus」(with Mesto feat. Dora Jar) ベッドルームポップ系アーティストとして頭角を表してきた、アメリカ人シンガーのドラ・ジャーがボーカルを担当。ゼッドのDJセットにもいち早く組み込まれ、人気を博していたナンバーだ。ドラは、ビリー・アイリッシュやThe 1975のオープニングアクトを務めたり、9月にはアルバムデビューの予定。オーケストラとエレクトロニックサウンドが融合されたゴージャスなサウンドが展開される。前述のエリスや、オランダの若手DJ/プロデューサー、メストも制作に関与。更に後述するミューズのマシュー・ベラミーもギターで参加する。 9.「Automatic Yes」(feat. John Mayer) 以前から交流のあるジョン・メイヤーが歌とギターで参加。ソフトロックな曲調が初期ジョンの作風を思わせるが、今ならシティポップに通じるバブリーな雰囲気とでも形容したいところだろうか。ジャストなタイミングで差し挟まれる、細やかなアレンジの妙が随所で光る。ビヨンセやタイラの共作者のアイソロギーこと、アリオワ・ベンスミスが曲作りで参加。シングルカットされれば大ヒットしそうな気がする。ちなみにジョンは、アレッシア・カーラとステージ共演したことがあり、その時にはゼッド&アレッシアの「Stay」のカバーを披露していた。 10.「1685」(feat. Muse) ラストを締め括るのは、ミューズとのコラボナンバー。以前からミューズの大ファンを公言し、実際、一緒にスタジオ入りしたこともあるゼッド。今回この曲を制作するにあたっては、ミューズとの共演が叶わなければ、インスト曲になっていたとも明かしている。彼もミューズも共にクラシック音楽の背景をもっており、ここではバッハとグノーの「アヴェ・マリア」のメロディが用いられている。タイトルはバッハの誕生年ではないかと言われてる。一旦曲が終わり、少し間を置いてからオーケストラ演奏が再開するのは、かつてCDによくあった“ヒドゥントラック”を再現したかったそうだ。 * 以上、全10曲を聴き終えて、これまでのゼッドとは随分異なる作風、サウンドなのに改めて驚かされる。戸惑うファンも少なくないだろう。いわゆるクラブ向けのトラック、シングルヒット狙いの楽曲を集めたアルバムでないのは明白だ。ゼッド自身も「EDM云々は、一切考えずに制作した」と語っている。アルバムのタイトル“Telos”(テロス)とは、古代ギリシアの哲学者アリストテレスも用いた用語であり、“完成、達成”などを意味するそうだ。つまり、ゼッドはこのアルバムで“テロス”の境地に到達。アーティストとして、これまで以上に充足感と達成感に満ち溢れたサウンドが聴こえてくるはずだ。 --- ゼッド 『Telos』 発売中
Hisashi Murakami