「日立の壁」を突破した経営者だからわかる、日本企業が「大企業病」を脱するための処方箋
「実は……」 目標予算の達成が難しくなってきました、という報告が目に見えて増えてくるのです。 これを「実は物語」と呼んでいました。 ■甘えの構造が残っていた また、日立はなんと言っても巨大企業ですので、社内カンパニーは、どこも多くの事業を抱えていました。各カンパニーは、カンパニー全体としての売上や利益率などで評価していましたから、カンパニーの社長としては当然、高収益の事業に注力します。それはいいとして、問題は、不採算事業や利益率の低い事業のほうです。
部門の担当者はもちろん、「今期こそ黒字転換します」「採算は上向きます」と、業績を改善する計画を立ててきます。 きちんと立てられた計画にのっとって目標が達成できれば何も問題はありませんが、苦し紛れに 作った現実的でない計画が、精査もテコ入れもされないままでは前述の通り、第3四半期には「実は物語」が待っています。 「自分のところが赤字でも、ほかが帳尻を合わせてくれる」という、カンパニー制導入で一掃しようとした甘えの構造が、まだ根強く残されていたということです。
そこで私は、社内カンパニーを解体して、2000億~数千億円程度のBUに分割・再編し、すべてを社長自らがマネジメントするBU制に移行させることにしたのです。 ■トップダウンが必要な場面がある BU制の導入はいわば社内革命です。大混乱が予想されました。 9社あった社内カンパニーの社長は、一国一城の主です。その人たちから城を取り上げてしまうのですから大変なことです。 また、カンパニー制度のもとでグループ長やカンパニー社長を務めていた副社長も、社内カンパニーがなくなってしまえば仕事がなくなってしまいます。
大変なのは役員や理事ら経営幹部だけではありません。BU制を導入するには、グループ・コーポレート部門や研究・開発グループを除いた、ほぼ全社員が関係する人事も断行しなくてはなりません。 「だらだらと進めていては、社内に不安や不満、反対論が充満してしまうだろう。士気に影響が出てしまう。スピードが命だ。事前に告知するのはやめよう」 そう考えました。 大改革を断行するときは、説明より結果が大事なときがあるのではないでしょうか。結果を出す前にあれこれ説明しても、疑心暗鬼が募るだけです。それより、結果を出して、「みなさんの努力で業績もよくなった、ボーナスもたくさん出せました」と説明したほうがだんぜん理解しやすいと考えたのです。
どんなチームのリーダーも、何かを大きく変える必要に迫られることがあるでしょう。ときには、トップダウン型の改革が有効であることを頭の片隅に置いていただけたらと思います。
東原 敏昭 :日立製作所会長