<ドキュメンタリー番組から学ぶ「南海トラフ地震」対策>3.11の教訓生かす西日本の放送局
医療〝孤立〟にどう対応するか
高知放送局のとさ金「南海トラフ地震 その時医療は」はまず、地震が発生した場合に県庁所在地の高知市を高さ10メートル以上の津波が襲い、死者は約4万2000人にのぼる数字をあげる。かつ、最大3メートルの津波が市内に押し寄せると、医療機関の半分以上が外からの支援を受けられなくなる。こうした医療機関は少なくとも1週間は「籠城」を迫られる。 高知放送局の医療機関に対するアンケートによると、食料・飲料水、薬など、自家発電が1週間以上維持できるところはほとんどなかった。 孤立した場合に緊急に他の病院に搬送が必要な患者を抱えた、大型病院(500床)は非常事態を想定した訓練を続けている。屋上のヘリポートには13階のエレベーターに乗り換えなければならない。 人手の問題で、1日に100人搬送するのが限界と推定されている。そのほかに、薬が貯蔵されている1階から重要なものを階上に上げなければならない。また、透析患者にとっては命にかかわる水道の確保も必要である。 東日本大震災当時、石巻赤十字病院で勤務していた東北大学病院の医師・石井正さんは次のように述べる。当時は病院間の患者の移送を指示するコーディネーターも務めた。 「医療機関が持ち堪えるのは3日間が限度ではないか。1週間は難しい。地震では道路が使えなくなる。支援の経路が難しくなる。支援の方法が必要である」
地震発生形態によって変わる被害の形
東海地方の「管中」とよばれる名古屋放送局制作の東海 ドまんなか!「南海トラフ巨大地震 見えてきた新たなリスク 命を守る行動とは」は、地震のメカニズムにまずメスを入れる。 東海地方から九州にかけてのプレートが必ずしも一体となって地震を発生させるわけではない。西日本がふたつに分裂して、ふたつの地震が発生するケースを「半割れ」と呼ぶ。 政府の予測によれば、「半割れ」した東側では震度7、西側では震度6強の地震が発生する。東海地方を中心とする東側では、死者約7万人が出る可能性がある。震度は8以上、20万人以上の避難が必要になる。 経済的な損失は134兆円。東日本大震災の10倍にも及ぶ。 名古屋大名誉教授の福知伸夫氏は、地震の規模について次のように述べる。 「(仮に二つの地震がそれぞれ起きても、同時に起きても)ひとつの地震で東日本大震災の5倍の威力がある」 歴史的にみると、「安政東海地震」(1854年)は、約32時間後に「安政南海地震」をもたらした。「昭和 東南海地震」(1944年)から2年後には「昭和 南海地震」が発生している。 東日本大震災の被災者を襲った巨大地震と津波の記憶が重なって、南海トラフ地震が襲うと予測されている地域では住民の避難訓練が続いている。 静岡市駿河区は、予測によれば、地震発生後10分で高さ4.6メートルの津波が押し寄せる。行政は、個々人が「わたしの避難計画」が作れるように避難タワーなどの位置を印した冊子を配っている。3月初旬の訓練では避難タワーに約250人が訓練に応じた。 名古屋市港区はいわゆる「ゼロメートル」地帯である。住民に「無事です」カードが配られている。無事であれば、ベランダなどに掛けるようになっている。逃げ遅れた人を見つけ出す仕組みである。