『虎に翼』を支えた松山ケンイチ×小林薫×滝藤賢一 最終週を前に考えたい桂場の“葛藤”
多岐川(滝藤賢一)が体現した法律家としての矜持
さて、今や自身を叱りつけてくれる人のいない桂場の中で唯一彼に「待った」をかけてくれるのは、今は亡き家庭裁判所設立準備室室長・多岐川幸四郎(滝藤賢一)だ。滝行や冷水をかぶったり、会議中にスルメを焼いてみたり居眠りしていたり、とにかく型破りで目が離せない相当な変わり者。そんな多岐川のコミカルさと情熱を併せ持った人間臭さや、戦争孤児のために自身の人生を費やそうというブレない芯の強さを見せてくれた滝藤賢一は、本作が朝ドラ出演4作目となる。多岐川の斬新な発想力と突拍子もない言動、抜群の行動力は皆を牽引する求心力を持ち、困難の前に横たわるあれこれなんて些末なものに思えてくる。 そしてヤミ商売を裁く立場から餓死した花岡(岩田剛典)の死を崇高なものとはせずに、「人間、生きてこそだ。国や法、人間が定めたもんはあっという間にひっくり返る。ひっくり返るもんのために、死んじゃあならんのだ」「彼がどんなに立派だろうが、法を司る我々は、彼の死を非難して怒り続けねばならん」と涙ながらに語った多岐川の言葉に彼の生き様、法律家としての矜持が凝縮されていた。だからこそ、多岐川は極端なまでに“生”を実感しようと全身を使い、全力で喜怒哀楽を表現していたのではないだろうか。 桂場は穂高が残した尊属殺の重罰規定へのアンチテーゼについて、20年の時を経た今、どのように対峙し自身の中での解を下すのか。桂場や寅子たちの中に残る穂高イズムや多岐川の面影は彼らをどこに導いてくれるのだろうか。
佳香(かこ)