橋本さとし、「危険性はらんだカリスマ性を」 ミュージカル「ラブ・ネバ ・ダイ」でファントム役に挑戦
ミュージカル「オペラ座の怪人」の10年後の物語を描く「ラブ・ネバー・ダイ」が東京・日生劇場で来年1~2月に6年ぶりに再演される。主人公のファントム役に初挑戦する橋本さとしは、過去に「レ・ミゼラブル」のジャン・バルジャン役や、「ミス・サイゴン」のエンジニア役を演じているが、長身の、憂いのある風貌(ふうぼう)は、謎めいた“音楽の天使”の人物像にも重なり合う。「誰もが憧れるキャラクターですから、演じられるのはビッグチャンス。橋本さとしというフィルターを通して誕生させたファントムにしたい」と意気込んでいる。 美しい旋律でドラマチックなストーリーをつづるアンドリュー・ロイド・ウェバーが深い思い入れを込めて生みだした、「オペラ座の怪人」の後日譚は、2010年にロンドンで初演。その後、ブラッシュアップされ、日本では2014年、19年に上演されている。 物語の舞台はニューヨーク郊外の海辺のリゾート地、コニーアイランド。「オペラ座の怪人」のラストシーンでパリ・オペラ座からこつ然と姿を消したファントムは、謎の興行主として歌姫クリスティーヌをファンタズマ(見世物小屋)に招き、封印していたクリスティーヌへの思いを再び燃え上がらせる。ファントム役は市村正親、石丸幹二とのトリプルキャストで、クリスティーヌも平原綾香、笹本玲奈、真彩希帆が交代で演じる。 橋本にとって「オペラ座の怪人」は、所有している映画版のDVDを何度も見るほど大好きな作品だという。楽曲の魅力はもちろんのこと、「ファントムという仮面をかぶった風貌自体、インパクトがあって、カリスマ性もある」と、役柄にもほれ込む。 ただ、「オペラ座の怪人」と「ラブ・ネバー・ダイ」では、ファントムの印象もずいぶん違う。「『オペラ座の怪人』のファントムはエネルギーに満ちていて、オペラ座という劇場を支配するぐらいのダイナミズムがありましたけど、『ラブ・ネバ―・ダイ』では傷が深くなっていて、もう少し人間味がある気がします」 ファントムのクリスティーヌへの愛はどこか偏執的だ。「クリスティーヌは自分の音楽を表現できる唯一の存在ですが、彼女への支配欲にがんじがらめになって苦しんでいる。男の俳優からするとやってみたい役だけど、女性から見たら、何て勝手で傲慢(ごうまん)な男なんだと映りかねないですよね」 そんな、愛に不器用なファントムに、クリスティーヌが本当の愛を届ける物語だと本作を捉えている。「最後に『よかったね、ファントム』と思ってもらえるよう、徹底的に愛に迷っている男を演じたい。それが傲慢に見えたり、邪悪に見えたりする、どこか危険性をはらんだカリスマ性を出せればと思います」 ロイド・ウェバーの楽曲を歌うのは初めてだ。「耳なじみがあって、キャッチーなのに歌ってみると、音符の振れ幅が広くて難しい。ミュージカルは物語を伝えてこそ成立すると思うので、素晴らしい楽曲に委ねつつ、それを自分がコントロールしながら言葉として物語っていきたい」と橋本。 2024年はミュージカル「カム フロム アウェイ」に始まり、「ムーラン・ルージュ! ザ・ミュージカル」、舞台「千と千尋の神隠し」のロンドン公演と、話題作への出演が続いた。「本当にありがたいこと。いい作品に出させてもらって、役者冥利(みょうり)に尽きます」と充実した一年を振り返った。 「千と千尋―」の釜爺役を演じるためにロンドンに向かったのは、「ムーラン・ルージュ!」の東京公演を終えた翌日。「ロンドンのお客さまは、圧倒されるくらい作品を楽しみに来ているので、僕が欲しいと思う反応が数倍になって返ってきた。大きな渦の中に巻き込まれるように芝居できたことは忘れられない経験になりました。これまで、自分なりにいろんな経験をさせてもらいましたけど、まだまだ感じられていなかったものがあると感じました」 「ラブ・ネバ―・ダイ」の後も、「二都物語」などへの出演が控えている。「自分の役者道にまい進して、昔から自分を見てくださっている方に、『橋本さとし、まだ行ってくれるんだ』というものを見せたい。その先駆けとして、役者として一つステップアップした姿をこの作品でお届けしたい」と熱く語った。(時事通信社・中村正子) 「ラブ・ネバ―・ダイ」は東京・日生劇場で2025年1月17日~2月24日に上演。