秋は夕暮れ 郷愁の世界へいざなうあかね空は心の原風景 彩時記~9月・長月
暦の上ではもう秋。酷暑から解放されてほっとする半面、去りゆく夏にわずかな寂しさも感じる。夕暮れ時、見慣れた町の景色があかね色に染まり、足を止めた。西の空は刻々と色を深めて、葉鶏頭を思わせる燃えるような赤い色に。闇に包まれるまでのひととき、町の表情も変わっていった。 【表でみる】9月のこよみ・主な行事 春夏秋冬の季節感を情緒豊かにつづった「枕草子」。清少納言は《秋は夕暮れ》と、したためた。「秋はやはり夕暮れがいい」と共感するのは、雲研究者で、「最高にすごすぎる天気の図鑑」(KADOKAWA)などの著書で知られる、気象庁気象研究所主任研究官の荒木健太郎さん(39)だ。 「秋は、高い空に巻雲や巻積雲などの雲が広がりやすく、『盛大に焼ける』ことがよくあります。秋ならではの盛大な夕焼けはとてもいいものです」 そもそも、日没の頃に空が赤くなるのはなぜか? 日中、空が青く見えるのは、太陽が高い位置にあり、青い光が散らばって広がっているから。夕方は太陽が低くなり、太陽光が地球上の大気の層を通る距離が長くなる。すると、波長の短い青い光は途中で散乱してしまい、波長の長い赤い光が残って地上に届く。 「夕焼けは大気中での壮絶な散乱を経て、たどり着いた赤い光が空に広がっている状態なのです」(荒木さん) 赤い光は散乱しにくく、遠くまで届きやすい。これは信号機の「停止」や、「危険」を示す色に赤が選ばれている理由のひとつでもあるとか。 きれいな夕焼けを見て、「明日は晴れる」と思う人も少なくないだろう。天気は西から東へと移り変わることが多いため、西の方角に雲がない夕焼け空が見えれば翌日は晴れる。昔からそう信じられてきた。 「実は当てはまらない場合が多いので、あまり信頼できません」と荒木さん。「夕焼けはそのときの気象状況によって見え方が変わってきます。目の前で焼けている夕空は、そのときにしか出合えない『奇跡』。一期一会の出合いを楽しんでほしい」 NPO法人「日本列島夕陽と朝日の郷づくり協会」(兵庫県高砂市)が選定した「日本の夕陽百選」のラインアップを見てみると、首都圏は夕焼けの絶景スポットが少ない。東より西日本のほうが多い〝西高東低〟。とはいえ、どこで見ても夕焼けの赤い光は心の奥深く届き、郷愁の世界へといざなってくれる。(榊聡美)