米中貿易戦争は米国に追い風 中国側の選択肢は尽きたのか?
中国の封じ込めで協力する欧米諸国
もう1つの重要な事例は、欧米諸国が協力して、中国に対するリソグラフィー装置の輸出を制限していることだ。高度な半導体を製造する上でリソグラフィー装置は不可欠だが、極めて高度な技術を要する同装置を製造できるメーカーは、現時点では世界でもオランダのASMLしかない。 近年では主要7カ国(G7)でさえ、中国の高圧的な経済戦術を抑えようと協力している。中国の戦略から強制力を排除することは、同国の選択肢と影響力を制限することになるため、これは重要なことだと言える。 ただ、いずれの事例も、貿易戦争の終結や、中国が他国に苦痛を与えることができなくなったことを意味しているわけではない。中国は最近、カナダ産の菜種油に対する新たな関税の適用を発表した。これはEV関税に対する報復措置とみられるが、カナダの菜種油輸出の半分以上は中国向けであることから、カナダの穀倉地帯として知られるサスカチュワン州は打撃を受けることになるだろう。一方の中国は、必要に応じてドイツやロシアといった他の供給国に頼ることができるのだ。 米中の経済関係が急速かつ広範に冷え込めば、法外な費用がかかるだろう。しかし、米国の行動からは、重要な分野でのリスクを最小限に抑えようとする姿勢が見て取れる。例えば、希少金属であるガリウムを巡る米国の努力だ。ガリウムは高性能半導体に使われる重要鉱物で、米軍の最先端防衛技術にも利用されているが、中国が世界全体の生産の98%を占めている。中国がガリウムの輸出制限を発表すると、米国はカナダなど他の供給国を探す対策を講じた。さらに米国では最近、北部モンタナ州シープクリークで高品質のガリウムが発見されたことから、国内供給の可能性も見えてきた。米政府はまた、国家環境政策法(NEPA)で定められた連邦環境審査の手順を簡素化し、近代化する方針を取っている。これらにはいずれも時間と費用がかかるが、米国は現在、中国のガリウム輸出制限措置を回避するために努力しているようだ。 結局、米中貿易戦争は物価高騰に拍車を掛けただけで、中国の不当なやり方を変えることはできなかった。それでも米国は、国内では補助金を出しつつ国外では市場を混乱させ、征服しようとする中国の能力を抑えることに相変わらず全力を注いでいる。この方針を取っているのは米国だけではない。目的を同じくするG7諸国が一丸となって協力すれば、貿易戦争の流れを変えることもできるだろう。中国の選択肢は限られてきている。
Christine McDaniel