年末年始にじっくり観たい! Netflix映画『終わらない週末』 理想の休暇とは程遠い"終末"スリラー
この「本当にあったら嫌な話」を精緻に立体化するのは、何をおいても、ジュリア・ロバーツ、マハーシャラ・アリ、イーサン・ホーク、そしてケヴィン・ベーコン(怪演!)という豪華俳優陣の芝居合戦だ。トッド・キャンベルの撮影とマック・クエイルの音楽(『MR. ROBOT』以来のサム・エスメイル組だ)も、アルフレッド・ヒッチコック作品を思わせる映画的なダイナミックさと、観る者にじりじりと負荷をかける不穏さによって、言葉にしがたい緊張感をもたらす。 練られたプロット、きめ細やかな演出と撮影、優れた俳優たちのアンサンブル。かつては劇場公開が当たり前だった、これぞ「上質なサスペンス映画」である。限られたシチュエーションを舞台に現代社会の暗部をえぐり出す作風は、『ゲット・アウト』(2017)や『NOPE/ノープ』(2022) などのジョーダン・ピール作品をも思わせるものだ。
しかし、エスメイルがこの作品で試みたのは、ピールのようなホラー/スリラーではなく、むしろ風刺コメディへと接近することだ。登場するのはアメリカ人の家族だが、描かれる「悪夢」を形づくる諸問題はもちろんアメリカ社会に限ったことではない。『終わらない週末』が観る者に突きつけるのは、「常に進歩しなければ、常に良くあらねば」と訴えかけてきた/訴えかけてくる社会に対する、強烈かつ徹底的なアイロニーなのである。
文 / 稲垣貴俊